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バイアス解消のカギは進路選択時の“身近な女性技術者”の有無

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2024.11.26

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野口 理恵
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平郡 政宏

半導体需要の増大を背景に、九州大学は価値創造型半導体人材育成センターを開設し、価値創造型半導体人材の育成に取り組んでいます。一方で、半導体業界を見渡すと活躍する人材の男女比には大きな偏りがあり、人手不足を解消する重要なカギの一つが理系の女子学生とも考えられています。

今回は、価値創造型半導体人材育成センターの副長を務める湯浅裕美先生に、女性視点/グローバルな視点から見た日本の技術者育成について解説していただきます。

多くの大学が女性技術者を増やすための取り組みをしていますが、理系の女子学生自体の少なさが課題です。小学生・中学生を対象としたアンケートを見ると、理系への興味に大きな男女差はないものの、高校時の進路選択で理系を選択する女子が減ります。九州大学の価値創造型半導体人材育成センターの副長を務める湯浅先生は、半導体業界はライフステージに影響されにくく、女性もキャリアが築きやすい業界であると言います。また、日本の半導体人材育成は国際的にも評価されており、若い世代には、変化を楽しみながら成長していける半導体業界に興味を持ってもらいたいとしています。

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    半導体業界はライフステージに影響されないキャリアを築きやすい

    ──人材不足を背景に、女性技術者が活躍できる環境の整備が求められているとききます。教育現場ではどのような取り組みがあるのでしょうか。

    湯浅 価値創造型半導体人材育成センターでは、「将来に向けた半導体の研究開発と人材開発における日米大学パートナーシップ」に参画しています。このプログラムが掲げる5つのミッションの一つに「半導体業界の女性を増やし、女性の活躍をエンカレッジする」というものがあります。

    各大学が女子学生、女性技術者を増やすための取り組みを重ねていますが、母数となる理系の女子学生がなかなか増えないので、取り合いのような状況になっています。理系の女子学生を増やすためには、さらに若い中高生世代にアプローチする必要があるでしょう。

    ──湯浅先生ご自身は、女性が活躍しにくい業界だと感じられますか。

    湯浅 私自身や周りの女性技術者の経験から言うと、半導体業界はむしろ女性がキャリアを築いていきやすい業界です。結婚や出産などのライフステージに影響されないスキルや立場を得ることができますし、半導体を事業とする企業は福利厚生が整っている企業が多いため、仕事を続けやすい。ワークライフバランスも実現しやすいと思います。

    ──だとすると、女子学生が増えていない現状において、障壁になっているものは何だと思われますか。

    湯浅 女性技術者の実例が少なく、どのようなキャリアを歩めるのか道筋を示すことが難しいというのが現状ではないでしょうか。進路を選択する世代の身近にそのようなキャリアの方が増えれば、技術者が特別だというバイアスはなくなっていくはずです。たとえば、「学校で講演会をするような人」は特別だけれど、「母親や近所のお姉さん」であればすごく身近に感じますよね。そのくらい身近なところに女性の技術者がいる状況を地道につくっていきたいです。

    ──家族に技術者がいるというのは、男女関係なく仕事をイメージしやすく、その道を志すきっかけにもなるでしょうね。

    湯浅 そもそも、子ども自身が理系に興味がないわけではないはずです。たとえば、小学生の女の子であれば、理科や実験が大好きな子は珍しくありません。小学生を対象とした工作教室などでも男女比は半々です。年齢が上がるにつれて女性の比率が下がってしまう。

    顕著なのは、高校の文系・理系、進路選択の段階ですね。ここでガクッと女性の比率が下がります。「数学って難しい」「理系に行く女子って、なんか変わっているよね」みたいな風潮がある。実際はそこに男女差なんてないはずなのに、結果、男子ばかりなってしまう。そういうカルチャーができあがってしまっているのだと思います。

    小学生・中学生の好きな教科(男女別)
    (出典)ベネッセ教育総合研究所「第5回学習基本調査」より編集部にて作図

    日本の半導体人材育成はグローバルでも高い水準にある

    ──日本の半導人材育成は、世界と比較してどうなのでしょうか。

    湯浅 半導体人材の育成は、個人的見解になりますが、日本が遅れているということは決してありません。さらに、たとえば先程のプログラムなどで米国と足並みを揃え、その他の国ともさまざまな協業をして、人材育成に取り組んでいます。米国のほかに半導体産業が盛んなのは、ベルギーとオランダ、それに中国と台湾です。そのなかでも、ぶっちぎりなのが台湾でしょうか。そして、人材不足なのは各国どこも変わりません。

    2024年の夏休みに、研究教育プログラムの一環で米国に学生17人を連れていきました。向こうの先生たちの話によると、今アメリカの半導体企業は、日本人学生を大歓迎するそうです。私のこれまでの感覚だと、米国の半導体企業で働くならドクターを持っていないと相手にされないと思っていました。もちろん、マスターとドクターでは処遇が違いますが、今や「マスターでOK」だというのです。その背景には、世界的な半導体人材の需要増と、日本の人材育成が認められていることがあるのだと思います。

    湯浅裕美先生
    湯浅裕美先生

    ──人材の海外流出についてはどのように考えていますか。

    湯浅 私としては、スキルアップしながらお金をしっかり稼いで日本に戻ってきてくれればいいと思っています。米国の企業はレイオフも多いですし、海外で5年くらい修行してくるのも選択肢の一つになるのではないでしょうか。今は、日本にいても転職のハードルが下がっていますから、チャンスだと思います。

    ──半導体業界全体にとっても有益な選択肢の一つですね。最後に、半導体業界をめざす若い技術者に向けてメッセージをお願いします。

    湯浅 そうですね。繰り返しになりますが、半導体に対する学生の認知や興味はとても高まっています。個人的には、テーマをクリアする達成感を感じながら成長し、ステップアップしていきたい人は半導体業界に向いていると思います。

    どんな新しい革新が起こっても、「変われる人」は生き残っていけるだろうし、「自分からチャンスを掴みにいける人」は絶対に楽しめるはずです。イノベーションを起こせたらもちろん素敵ですが、そういう人は世界でも類まれですので、革新が起きたときに食らいついていける能力が一般的には重要でしょうか。業界全体が成長を続けていますから、変化を楽しむことで自分自身も成長するチャンスがあります。多くの若い方に半導体業界に興味を持ってもらいたいですね。

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