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poimoがめざす、低速でどんな人にも合うモビリティ

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2025.01.31

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岩﨑 史絵
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平郡 政宏

「安全な移動の実現」に向けて、既存の自動車業界の外で挑戦する技術者たちがいます。
「poimo(ポイモ)」は、風船のように空気でふくらませるというコンセプトで注目される、ユニークなモビリティです。またソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社(以下、SSS)は、車載用イメージセンサーなどを始め、安心・安全な走行を実現するセンシングテクノロジーの開発に注力しています。
「ぶつかっても安心」なpoimoと、「絶対にぶつからない」クルマの開発に貢献しようとするSSS。それぞれに携わる技術者はどこをめざし、どんな壁を感じながら開発を進めているのでしょうか。
「poimo」のプロジェクトを担うmercari R4Dの山村亮介(やまむら・りょうすけ)さんと、SSS車載事業部でセンサー開発に携わる別府太郎(べっぷ・たろう)さんに話を伺いました。

poimoはmercari R4Dと東京大学の共同研究から誕生した、空気でふくらむ個人用電動モビリティです。軽量で柔らかいドロップステッチ素材を用い、最高時速6kmの低速設計により安全性を確保。衝突時の怪我を防ぎ、車椅子を利用する方が直面する問題を解決する可能性もあります。インクルーシブな移動手段として、体験者からのフィードバックを反映しながら社会実装を進めています。一方、狭い日本の道路や量産性、輸入コストなどが課題です。ジョイスティック操作やセンサー削減を試み、コストを抑えつつ、誰でも使いやすい設計を目指しています。

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    「空気でポンとふくらむ」乗りものをイメージ

    山村 poimoはメルカリの研究開発組織であるmercari R4D(以下、R4D)と、東京大学の川原圭博先生の研究室とで進めていた(現在はR4D単独)個人用電動モビリティの共同プロジェクトです。R4Dと川原先生との共同研究が立ち上がり、その合宿で「空気でふくらみ、用途に合わせて自由に形を変えることができるモビリティ」というコンセプトが誕生しました。

    ドラゴンボールに出てくるホイポイカプセルのように、ボールを投げてポンとふくらませればすぐに使える乗りものをイメージしています。「Portable and Inflatable Mobility」(持ち運び可能な、空気でふくらむモビリティ)を略してpoimoと名付けました。

    ――空気でふくらむというコンセプトはユニークですね。

    山村 ソフトロボティクス研究では空気を使ったロボットが開発されているので、珍しくはありません。ただ、かつて自動車部品メーカーのデンソーにいたからわかるのですが、自動車メーカーではこういうアイデアは通りにくいと思います。

    poimoのボディ
    生地(ドロップステッチ素材)を裁断し、接着剤で貼り合わせてできあがるpoimoのボディ

    ――なぜ自動車メーカーでは難しいのでしょうか。

    山村 poimoはボディに軽量で強度のあるドロップステッチ素材を使っていますが、「いつ何%の確率で壊れるか」という既存のデータがないので、自動車メーカーでは(品質保証会議での)審査が難しいでしょう。ですがこのような素材だからこそ、自由な形が作れて用途に応じたカスタマイズができ、乗る人に合わせたインクルーシブなデザインを実現できます。やわらかいのでぶつかっても怪我をしません。これは既存メーカーにはできないし、イノベーションになる、メルカリの配送にも役立つということで、当時R4Dの代表だった私が提案してマネジメント職を離れ、研究者に戻ることでプロジェクトをスタートしました。

    ぶつかっても大丈夫なら自動運転は必要ない

    ――poimoの安全性に関する取り組みを教えてください。

    山村 自動車分野に関わる技術者の究極の目標は「交通事故ゼロ」の実現です。そこで注目されているのが自動運転ですが、別府さんは自動運転の重要技術であるセンシング領域がご専門ですよね。

    別府 はい。SSSでは車内外の状況を把握する「自動車の眼」となるセンサーの開発に取り組んでおり、安心して走行できる自動運転の実現をめざしています。

    山村 poimoはそれとは違った方向から安全性にアプローチしています。その一つが低速へのこだわりです。poimoは時速6kmが最高速度で、これくらいのスピードであればぶつかっても怪我につながることは少なく、安全のための自動運転は不要になります。

    次なる危険は衝突による衝撃です。そこで出てきたアイデアが、やわらかい素材を利用することでした。高速移動だと乗員保護のために強固な素材が必要ですが、低速のpoimoなら空気で膨らみ強度も確保できるドロップステッチ生地を利用できます。運動エネルギーは速さの2乗と質量に比例するので、速さの次は質量を減らしたわけです。

    poimoに空気を入れる山村さん
    poimoに空気を入れる山村亮介さん

    ――ボディにやわらかい素材を採用したことで、ほかにメリットなどはありましたか。

    山村 思いもしなかったのですが、高齢者や障がい者の方など、車椅子を利用されている方に需要があることがわかりました。車椅子は硬い素材なので、どうしても室内を傷付けてしまう。そのため賃貸物件を借りられないこともあるそうですが、poimoであればこうした問題を解決できる可能性があります。

    車椅子を利用されている方の話を聞いてからは、この方向に舵を切って200~300人の方にpoimoを体験してもらい、体験した方の声を真摯に聞いて社会実装に向けた動きをしています。poimoを通じて、移動にハードルがある方も含め、誰もが安全に移動できるような社会を実現したいです。

    コスト面と「インクルーシブ」のせめぎあいの中で進める社会実装

    ――poimoの社会実装における課題や、操作面での安全性についてはいかがですか。

    山村 課題の一つは、日本の道の狭さですね。この点ではヨーロッパの方が普及の土壌はあるのではないかと思います。

    技術的な面では、poimoの対候性がまだわかっていません。加えて、量産性における課題があります。国内で声をかけてくれたメーカーもあったのですが、「月1万台からスタート」といったところが多く、小ロットから始めようと思うと海外メーカーに頼らざるを得ない。当然、輸入費用や調達リスクは避けられません。

    操作についてはいろいろ検証した結果、現在はジョイスティックで操作するようにしています。

    別府 先ほどpoimoを操縦したとき、ジョイスティックの位置を自由に変えることができるのは便利だなと思いました。

    操作用のジョイスティック
    操作にはジョイスティックを採用

    山村 「誰でも操作できる」ことと安全性を考えると、できればひじ掛けに導電性のスポンジとセンサーを組み込み、ひじを使って操作できるようにしたいんですが、応答性に課題があり実現までは程遠い状況です。

    別府 なるほど。ちなみにpoimoではどのようなセンサー技術を活用していますか。

    山村 モーター制御用のセンサーは入っていますが、実はセンサーはできるだけ減らそうとしています。価格が高くなると必要な方に届かなくなるからです。poimoも操作性の面などで自動運転のニーズはあるので、自動運転技術を取り入れる試みなどもしているのですが、なるべくセンサーを使わないような挑戦をしています。SSSさんの取り組みとは逆なのですが、ぜひここからは別府さんの挑戦についても伺いたいです。

    02 SSSがめざす、人間の眼を超えて検知できる絶対安全なクルマ
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