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皮膚や服がインターフェースになる未来

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2026.01.26

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松本友也
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平郡政宏

まるで皮膚のように伸縮する「やわらかい半導体」の実装は、私たちの生活をどう変えるのでしょうか。前回、その可能性を共有した東京大学准教授・松久直司(まつひさ・なおじ)さんと、「アンリアレイジ」デザイナー・森永邦彦(もりなが・くにひこ)さん。議論は、具体的なアプリケーションのアイデアへと移ります。「デジタルコスメ」や「ダウンロードする服」、さらには「知覚の拡張」まで――二人の対話から、テクノロジーが皮膚や服をインターフェースへと変化させる未来が見えてきました。

「やわらかい半導体」が実際に私たちの生活や装いに取り入れられたとき、どのような変化が起こるのかを具体的な応用アイデアを通じて掘り下げます。松久氏は、皮膚上に極薄ディスプレイを貼り、色味を電子的に変化させる「デジタルコスメ」を提案し、メイクを切り替えるという新しい価値観を示します。森永氏は、デザインをダウンロードして着せ替えられる「プラットフォームとしての服」という構想を語り、ファッションがリアルタイムに情報を発信するメディアへと進化する可能性を提示します。さらに、センサーや刺激によって人の知覚を拡張する試みも紹介され、皮膚や服が外界と人をつなぐインターフェースになる未来像が描かれます。

Contents

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    皮膚の上で自在に色を変える「デジタルコスメ」

    ──第1回でご紹介いただいた技術のほかに、松久さんの研究室ではどのような研究をされていますか。

    松久:「伸縮性エレクトロニクス」のための材料開発から応用まで、幅広く手がけています。今日お持ちした液体金属インクや「皮膚と一体化する生体電極」のほかにも、成分の90%が水でできているハイドロゲルや、カーボンナノチューブなどの炭素系材料、さらにはそれらを包み込む高分子(ポリマー)そのものの合成も行っています。既存の材料を使うだけでなく、新しい材料をつくるところから取り組んでいるのが私の研究室の特徴です。

    松久直司さん
    松久直司さん

    ──松久さん自身が、伸縮性エレクトロニクスを使って実現したいものは何でしょうか。

    松久:私が今、特にやりたいと思っているのは「デジタルコスメ」です。先ほどの生体電極の技術を応用して、皮膚の上に極薄のディスプレイを置くイメージですね。たとえば頬に透明なシートを貼っておいて、電気信号を送るとポッと赤くなる。そんなデバイスが作れるんじゃないかと。

    森永:チークの色を電子的に変えられるということですか?

    松久:そうです。周囲の環境や、あるいは対面している相手との関係性に合わせて、自動で血色を良く見せたり、メイクの色味を変えたりできたらおもしろいですよね。

    今の化粧品は、一度塗ったら落とすまでそのままですが、これは瞬時にON/OFFができるし、色も変えられる。「アクティブな化粧」という新しい概念を作れるんじゃないかと思っています。

    森永:それはおもしろいですね。メイクって、基本的には「化粧をする」「落とす」の二択だったのが、「切り替える」という新たな選択肢が生まれるかもしれない。

    LEDを織り込んだ服を発表したとき「ランウェイ上で服の柄を交換する」という演出をしましたが、これを使えばランウェイ上で一瞬でメイクが変わる演出もできるかもしれませんね。

    松久直司さん(左)と森永邦彦さん(右)
    松久直司さん(左)と森永邦彦さん(右)

    ファッションが「プラットフォーム」になる未来

    ──前回、松久さんの研究を応用すれば、LEDを使った服の「重い」「熱を持つ」といった課題を解決できるのでは――というお話がありました。薄くて伸び縮みするLEDディスプレイを「着る」ことが当たり前になったら、服の概念が変わりそうです。

    森永:僕が構想しているのは、服が「プラットフォーム」になる未来です。現在準備している新たなプロジェクトでも、それに近いことを考えていて。「デザインをダウンロードする服」というアイデアなんです。

    たとえば、あるTシャツを買った時点では無地なんだけど、デザインをダウンロードすることでグラフィックTシャツに変わる。物理的なアイテムは一つしか持っていなくても、その表面の「情報」は無限に着せ替えられる。そんなサステナブルな楽しみ方ができるんじゃないかと。

    現状では、バッグやシューズであれば実現可能ではないかと考えています。でも、もし伸び縮みするエレクトロニクスを通じてそのシステムを服にも導入できるとしたら、世界が変わるんじゃないでしょうか。服は誰でも着るわけですから。

    森永さん

    松久:服にエレクトロニクスが当たり前に入り込めば、たとえば同じ場所にいる人全員の服に同じメッセージを流す、なんてことも可能になるかもしれません。

    森永:もし「データをダウンロードして着る服」が実現したら、ファッションとメディアの関係の転換点になるのではないかと思います。19~20世紀には、広告看板を身体の前後にぶら下げた“サンドイッチマン”が人間広告として歩いていましたが、その後プリントTシャツが生まれ、服でメッセージを発信できるようになりました。その次は、服がもっとリアルタイムなメディアになる時代が来るはず。それも遠い未来の話ではないと思います。

    エレクトロニクスで実現する、「知覚」をまとうファッション

    ──服にエレクトロニクスが織り込まれることが当たり前になったら、ファッションと身体感覚の関係も変化していきそうです。

    森永:松久さんの研究開発されているデバイスが普及したら、人間の知覚やコミュニケーションのあり方が確実に変わる予感があります。皮膚感覚で何かを伝えたり、それまで知覚できなかったものを知覚したりするといったような。僕は前から、人間の知覚を拡張するファッションをつくりたいと思っているのですが……。

    ──知覚を拡張するとはどういうことでしょうか。

    森永:以前、真鍋大度さんなどと一緒に「エコーウェア」という服を作ったことがあります。「空間を知覚する服」というコンセプトで、発した光の往復時間で距離を測るToF方式距離画像センサーを使い、「モノとの距離」を振動に変えて着る人に伝える服です。

    センサーで取得した距離情報を振動として体にフィードバックすることで、「右側に壁があるな」「人が近づいてきたな」とわかり、目を閉じていても歩くことができる。これって、新しい「知覚」を着ている状態だと思うんです。

    松久:人間が本来持っていない感覚を、服で拡張するということですね。

    森永:エコーウェアについて、人工流れ星を実現しようとしている岡島礼奈さんとお話したときに「望遠鏡と連動して、流れ星が流れたら振動する服」の可能性について語り合ったことがあります。遠い宇宙のできごとを、自分の肌で感じることができたらおもしろいですよね。松久さんの皮膚に貼るデバイスを使えば、「遠い星の瞬き」のような情報を、熱や電気刺激として皮膚に伝えることもできるんじゃないでしょうか。

    「アンリアレイジ」の洋服が並ぶ

    松久:技術的には可能です。光や無線で飛ばした情報を、皮膚上のデバイスで熱や振動、微弱な電気刺激などに変換してフィードバックする。遠く離れた家族が触れた感覚を、自分の腕でリアルタイムに感じるといったこともできそうですね。

    森永:そういった「新しい感覚をまとえる服」は、今のファッションで重視される色、形、素材だけでは生み出せない。エレクトロニクスが当たり前に入るようになれば、服で人の知覚や五感をアップデートすることも、特別なことではなくなっていくのではないでしょうか。

    松久:外界と自分をつなぐインターフェースとしての皮膚や服の可能性は、無数にありますね。周囲の環境や、自身の生体情報を表現するディスプレイにもなりうるし、コミュニケーションのツールにもなる。

    森永:ただファッションの観点で言うと、服は機能性だけでは「ファッション」にならないんですよね。ファッションには人間の欲望と密接に結びつく「何か」が必要で、今のところはそれが「デザイン」だと思うのですが、松久さんの研究が人間の潜在的な知覚を開放するきっかけになるとしたら、ファッションにも別の新しい基軸が生まれるかもしれないですね。それがどんなものかは、なかなか予想できないですが。

    ――次回は、そうした技術が実際に社会に浸透していくビジョンを、具体的にお聞きしたいと思います。

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