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「使う」から「まとう」へ。エレクトロニクスと人が溶け合う未来

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2026.01.26

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松本友也
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平郡政宏

東京大学准教授・松久直司(まつひさ・なおじ)さんと、「アンリアレイジ」デザイナー・森永邦彦(もりなが・くにひこ)さんによる対談の第3回。「やわらかい半導体」で実現する「デジタルコスメ」や「ダウンロードする服」など、アイデアは尽きませんが、実際に社会で広く使われていくにはまだ壁があります。新しい技術が社会で当たり前に使われるものになるために、必要なものは何か。そしていずれ半導体が人の体に自然に溶け込むようなものになったとき、テクノロジーと人間の関係も変わるのかもしれない――そんな未来に思いを馳せる対談になりました。

「やわらかい半導体」が社会に広く浸透していくために必要な条件や、その先にある人とテクノロジーの関係性について考察します。松久氏は、絆創膏のように自然に貼れて、つけていることを忘れるほど違和感のないデバイスこそが理想だと語り、医療やヘルスケアにとどまらない普及の可能性に言及します。一方で、電源やシステム全体を含めた実装の難しさや、誰もが簡単に使える形にするための課題も明らかにされます。森永氏は、半導体が「使うもの」から「着る・まとうもの」へと変わることで、テクノロジーの捉え方自体が変化すると指摘し、10年後には電子技術が人の体や生活に自然に溶け込む未来が訪れる可能性を展望します。

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    「皮膚になじむデバイス」が当たり前になる未来

    森永:松久さんの「皮膚と一体化する生体電極」を体感してみて、ここまで違和感がないものかと衝撃を受けました。エレクトロニクスを身にまとうって、もっと仰々しいイメージがありましたが、これは本当に自然で。

    森永邦彦さん
    森永邦彦さん

    松久:私はエレクトロニクスが「当たり前にそこにある」未来を実現したいと思っています。よく「ナチュラルなサイボーグ」と言っているんですが、体に機械を埋め込むような怖いイメージではなく、絆創膏を貼るような気軽さで生体情報を取得できたり、身体機能を拡張できるようになるといいですね。自分がデバイスを使っていることすら忘れている状態が理想です。

    森永:スマートウォッチやスマートリングなどの現状のウェアラブルデバイスだと、つけている感覚がはっきりとあって、ずっとつけていられない方もいますよね。その点、この伸び縮みする生体電極なら、小さな子どもでも嫌がらずにつけてくれそうです。

    松久:まさにその通りで、介護や医療の現場では特に、見た目や装着感の自然さが大事になってきます。そうした事情もあって、伸縮性エレクトロニクスの分野ではヘルスケアセンサーなどの研究をされている方が多いです。

    でも私はもっと、「おもしろそう」「ワクワクする」といった動機で使ってもらえると、当たり前に人びとの生活に浸透していくものになっていくんじゃないかと思っています。スマートフォンだって、手軽に動画を観たいとか、きれいな写真を撮って誰かと共有したいとか、そういう人間の欲を喚起したからここまで普及したと思うんですよ。私がデジタルコスメを実現したい背景には、そういった思いもあるんです。

    松久直司さん
    松久直司さん

    ──松久さんは研究をする上で、そうした情緒的な価値も大切にされているのでしょうか。

    松久:そうですね。そもそも私の研究の原点は、「やわらかいものに電気が流れていたら、なんかおもしろそう」という、ごく単純な興味なんです。私の研究室でも、幅広くいろいろなことに興味を持って目を向けていくことを大切にしています。

    森永:ワクワクするってすごく大事ですよね。僕も「誰も見たことがないものを作りたい」「こんなものが服としてあったらおもしろいんじゃないか」という思いで服をつくってきました。

    ファッションの世界には、一部の人にしかわからない難解な「美しさ」もあります。でも、誰もが一目見て驚いたり、おもしろく思ったりするようなファッションのあり方もあるんじゃないか。僕が最新テクノロジーを使うのには、そういう理由もあるんです。

    半導体は「使う」ものから「まとう」ものへ

    ──「皮膚になじむデバイス」の社会実装を実現するために、技術的にはどんな課題があるのでしょうか。

    松久:部品としての「やわらかいセンサー」や「やわらかいディスプレイ」は、今日お見せした通り、すでに完成しつつあります。最大の壁はシステム化ですね。いくらセンサーが薄くてやわらかいものでも、それを動かすための電源などの周辺部品は、硬かったり大きかったりするんです。

    森永:確かに。光ったり動いたりする服をつくる上でも、バッテリーをどこに隠すかは常に悩みどころです。

    松久さんと森永さん

    松久:システムができたら、その次は「誰もが使えるものにする」というまた大きな壁があります。誰もが手軽に、自分で皮膚にペタッと貼ったら使えるようなものにするためには、いろんな分野の方の協力が必要になる。まずは1、2年でプロトタイプをつくり、その後5年から10年かけて実用化・量産化へ持っていくイメージでしょうか。

    ──でも、10年後くらいには実現しているのかもしれないですね。お二人の話を聞いていると、10年後には「半導体」という言葉のイメージがまったく変わっていそうです。

    松久:そう思います。今は「機械の中に入っている、計算するための黒いチップ」といったイメージを持っている方が大半だと思うんですが、実際には生活の中に当たり前にあるものですし、いずれは「生活空間のあらゆるところに溶け込んでいるもの」というイメージになっていってほしい。そのためにも、人の肌に溶け込む半導体デバイスの社会実装を進めていきたいと思っています。

    森永:そうなったとき、半導体に対する動詞が変わると思うんです。半導体って、いろいろな機械の中で「使う」ものというイメージがありますよね。でも今日見せていただいたような、薄くて伸び縮みするデバイスが当たり前になった未来では、「着る」もの、あるいは「まとう」ものになっているかもしれない。そんなふうに、半導体が服や皮膚とシームレスな存在になっていったら、テクノロジーの裾野はもっと広がると思います。

    僕はまず、松久さんのデジタルコスメが楽しみです。実現したら、ぜひパリコレで使いたい。

    松久:もしパリコレで披露されたら、私にとっても夢のようですね。使っていただけるように、これからも頑張ります。

    松久さんと森永さん

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