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日本は制度先進国? 自動運転における意外な立ち位置と技術開発の現在地

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2026.02.27

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末岡洋子
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平郡政宏

世界各地で着実な進化を見せる、自動運転技術の開発。その大きな潮流の中で、日本の技術は現在どのようなステージにあるのでしょうか。また、安全な走行を支える基幹技術であり、車の“眼”としての役割を担うセンシング技術には、どのような機能と使命が託されているのでしょうか。自動車ジャーナリストとして活躍する川端由美さんに、世界的に見た自動運転の動向と、その進化を支える技術トレンドについて語ってもらいました。

自動車ジャーナリストの川端由美さんに、世界の自動運転開発の動向と日本の現在地について伺いました。日本は自動運転の制度面においては先進国であり、2023年には、条件付きながらレベル4を全国で認めた世界的に珍しい国となりました。その背景には、技術進化に追いつくための法整備に加え、事故時の被害者救済を優先した方針があります。
また、日本の自動車メーカーは、責任リスクに対して慎重な姿勢を見せていますが、Hondaが世界に先駆けてレベル3の量産車を実現するなど、着実な歩みを進めています。自動運転の鍵を握るAI開発では、膨大なデータと資金力を持つ米国がリードし、中国は量産コストの面で強みを持っています。今後、日本は「高度なものづくり」といったハードウェアの強みを生かしつつ、いかにソフトウェアの競争力を高めていけるのかが課題となっています。

Contents

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    世界でも珍しい、全土で自動運転が認められている日本

    川端 由美さん(中)

    ──日本の公道でも目にする機会が増えた自動運転の技術ですが、世界を見渡すと「Tesla」や、「Waymo」「Zoox」によるロボタクシーなど、自動運転は米国発の動きが目立ちます。そのような中で、日本の情勢をどうみていますか。

    川端:まず、自動運転を実現するには、その技術開発だけでなく自動運転に対応した法令などの制度を整える必要があります。米国の状況を見ると意外に思われるかもしれませんが、日本は、自動運転の制度面では先進国と言えます。

    システムによる監視レベル5完全自動運転
    レベル4特定条件下における完全自動運転
    レベル3特定条件下における自動運転
    運転者による監視レベル2高度な運転支援
    レベル1運転支援
    自動運転・先進運転支援システムのレベル分け(国土交通省の資料をもとに作成)

    日本の自動運転への取り組みは、2020年の東京五輪(2021年開催)に向けて、2014年頃から本格化しました。その中で、日本政府が最初に着手したのが、公道における自動運転実現のための法整備でした。法整備が優先された大きな理由は、2つあります。

    1つ目は、技術の進化が法制度を追い越してしまったことです。2010年代半ばから、ADAS(高度ドライバー支援システム)の進化と、「人が運転すること」を前提としていた従来の法令がうまく噛み合わなくなってきました。さらに、米国・欧州・中国といった国々が自動運転の法整備を加速させたことを受け、日本国内でも、実証・実装を推進する動きが本格化しました。

    2つ目は、自動運転下で事故が起きてしまった場合、誰が責任を負うのかということです。運転手なのか、自動車メーカーなのか、自動運転を制御するAIの開発会社なのか……。この争点において、日本が最優先事項としたのは被害者救済でした。事故の当事者にのしかかる最も大きな不安は、治療や生活の目途が立たなくなることですよね。責任の所在が複雑なために、救済が後回しにされ、そうした「出口の見えない不安」をかかえることがないよう、まずは確実な補償が実行されるべきと考えたのです。自動車損害賠償保障法などの関連法令に基づいて、事故の際の補償を円滑に進められるようにしました。

    このような動きもあり、日本では2023年、条件付きではあるものの、全土で「レベル4」の自動運転が認められることとなりました。

    実は、世界的にみて、国の全土で同レベルの自動運転が認められているケースは珍しく、その点で日本は先進的だと言えますね。米国の場合、その環境は州ごとにバラバラで、先ほど述べられたWaymoが走れるのは、カリフォルニア州など一部の州に限られています。ニューヨーク州ではオペレーターの同乗なしに自動運転車は走れません。

    ──日本はいわば、土台から整えるアプローチをとったのですね。では、自動運転技術そのものは、どのような状況でしょうか。

    川端:日本の自動車メーカーは用心深い姿勢と言えます。レベル2までは各社順調に開発を進めてきましたが、その後は、レベル2+、レベル2++と少しずつ高度化している状況です。これは、レベル3以上では、事故がメーカーの責任になる可能性の高いことが大きな要因でしょう。

    とはいえ、レベル3の自動運転装置を備えた量産車両を世界に先駆けて実現したのは「Honda(本田技研工業株式会社)」です。Hondaは、「この範囲内の事故であればシステムの責任、範囲外なら人の責任」といった境界線を明確にするため、「どのような状況で、システムがどう作動し、どう安全に終了する」といったさまざまなシナリオを想定し、膨大なシミュレーションを経て自動運転システムをつくり込んでいます。そのため、車には、カメラやレーザー光を用いたセンシング技術がたくさん搭載されていますね。

    ハードとソフトが交差する自動運転、技術開発の最前線

    ──センシング技術では、ハードウェアだけでなくソフトウェアも重要になってきますよね。

    川端:そうですね。本格的な自動運転になると、車載用センサーから得られる情報をもとに瞬時に最適な判断をくだすソフトウェア、つまり「AI」が重要になります。そして、この自動運転のAI開発には、大きく3つのステップがあります。まずは、実際に車を走らせてデータを収集します。次は、そのデータを仮想空間に取り込んでのシミュレーション。最後が、仮想空間で現実には起こせない状況まで含めて強化学習を行います。

    日本の自動車メーカーにおいて、この「AIを開発する(育てる)」ための大きな投資ができる企業は限られています。米国のWaymoのような企業が強いのは、まさにこのAI開発で、Waymoはベースとなる車を調達して、自分たちで育てたAIを搭載するというアプローチを取っています。

    ──米国以外の地域は、どのような状況でしょうか。

    川端:欧州も自動運転への取り組みはさかんですが、米国と比べるとそのスピードには差があります。米国は既存の自動車メーカーに加え、次々と生まれるスタートアップが競い合いながら開発を進めています。一方の欧州は、世界的な自動車メーカーや巨大サプライヤーが数多く存在し、近年では欧州メーカーも米国・中国の市場で実証実験を行っていますが、公道実験が許容されやすい米国に比べ、実際の走行実績を積み上げるスピードが遅いですね。

    他方、量産化という視点で見ると、コストを抑えた開発・システム構築の能力が高い中国が若干リードしている状況と言えるでしょう。これに対し、米国はAIエンジニアと資金を投入して、その差を追い上げています。こうした中で日本は、長年培ってきた「高度なものづくり」や「精密な設計」といったハードの強みを活かしつつ、いかにソフトの競争力を高めていけるのかが、これからの大きな課題となっています。

    ──世界の自動運転の動向と日本の取り組みがわかりました。次回は、自動運転を支えるセンシング技術についてお聞きします。

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