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ビジネス的成功も「ワクワク」も手放さない。ALE創業者・岡島礼奈が挑む宇宙ビジネスの世界

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2025.08.18

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鷲尾 諒太郎
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平郡 政宏

ALEを率いる岡島礼奈(おかじま・れな)さんに、事業の現在地と宇宙ビジネスを支える技術について語っていただいた前回。今回は、科学の道を志しながらも外資系金融機関に就職し、その後ALEを創業した岡島さんのキャリアについて、そして宇宙ビジネスの難しさについてお話を伺います。
資金調達から技術開発、そして国際的な交渉・調整など、多岐にわたる業務が生じる宇宙ビジネスを、岡島さんは「総合格闘技」と表現します。そんな「総合格闘技」を戦い続けている岡島さんは、人工流れ星事業の先に何を見据えているのでしょうか。

ALE創業者の岡島礼奈さんは、大学での天文学研究から金融業界への就職を経て、科学に貢献しながらしっかりと利益を上げる民間ビジネスを志しました。人工流れ星は、科学と人々の宇宙への関心をつなぐと同時に、早期に収益化しやすいビジネスモデルでもあります。宇宙ビジネスは技術・資金・渉外などが複雑に絡み合う「総合格闘技」であり、多様な専門家との連携が不可欠です。岡島さんは「ワクワクするかどうか」を意思決定の軸に据え、厳しい宇宙ビジネスの世界で、ビジネス的成功と好奇心を両立する挑戦を続けています。

Contents

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    研究者に向いていないからこそ見えた、科学への新たな貢献の道

    ——岡島さんは東京大学で大学院まで進み、天文学を専攻されていたということで、アカデミアに残る選択肢もあったと思うのですが、なぜビジネスの道を志すようになったのでしょうか。

    岡島 一言で言えば「研究者には向いていない」と感じたからですね。もう少し具体的にお話しすると、科学を発展させるためには適切な役割分担が必要で、私の役割は研究そのものではなく「お金を集めること」ではないかと思ったんです。

    というのも、天文学や素粒子物理学のような基礎科学の研究は、非常に大規模な装置を必要とするため、莫大なお金がかかります。大学院時代の指導教官は、研究者としても一流でありながら、研究資金を集めることにも長けた方でしたが、その先生ですら「資金集めに時間を取られて、なかなか研究に時間を割けない」とぼやいているのを耳にしたことがありました。

    そんな先生の姿を拝見しているうちに、純粋に頭脳を使う研究者は研究に専念し、資金調達は別の人間が担った方が、より効率的に研究が進むだろうなと思ったんです。そして私はどちらかと言えば、お金を集める方が向いているのではないかと感じました。

    であるならば、まずはお金というものを徹底的に知らなければならない、資本主義の仕組みを深く理解しなければならないと考えました。そこで大学院修了後、世界有数の金融機関であるゴールドマン・サックス証券に入社し、証券戦略投資部という部門で債券投資事業やPE(プライベート・エクイティ)業務に従事。いわば資本主義の最前線で、投資の基本や投資家の視点を学びました。そして「民間企業としてきちんと利益を挙げながら、科学の発展にも貢献する」という思いを胸にALEを立ち上げ、人工流れ星事業への挑戦を始めたんです。

    ALE社内にあるクリーンルーム
    ALE社内のクリーンルームに入る岡島さん

    ——鳥取砂丘で見た「しし座流星群」に感動したことがきっかけで、人工流れ星の事業に乗り出したと聞きました。

    岡島 それも事実なのですが、実は、事業内容は流れ星でなくてもよかったんです。私の目的は「科学への貢献」と「人びとに宇宙への興味を持ってもらうこと」で、人工流れ星はその両方にうまく合致していました。

    さらに人工流れ星事業は、宇宙ビジネスの中でも比較的早期に収益化しやすいビジネスモデルです。通常、通信衛星などの宇宙ビジネスは、多数の衛星を打ち上げて「コンステレーション」と呼ばれる衛星群を形成し、それらを連携させることで初めてサービスが成り立ち、収益化に至るケースが多いです。しかし人工流れ星は、1基の衛星で流れ星を成功させることができれば、すぐにサービスを開始して黒字化できる。その意味で、実はビジネス的な視点から見ても優れているんです。

    宇宙ビジネスは「総合格闘技」である

    ——宇宙を舞台にビジネスを展開する企業、特にスタートアップはまだまだ少ない印象です。ビジネスとして成立させること自体が容易なことではないと思いますが、宇宙ビジネスの難しさについてどのように感じていますか。

    岡島 私は、宇宙ビジネスは「総合格闘技」だと思っています。人工衛星を開発するには高度な技術力が求められますし、調達しなければならない資金も多額になります。さらに、事業を進めるには国際的な協力や理解を得る必要があり、各国の規制当局との調整も不可欠です。以前、IT系のスタートアップを経営していた経験もあるのですが、その時には直面しなかったような、国をまたいだ複雑な調整や交渉が次から次へと発生します。技術開発、資金調達、法務、渉外と、ありとあらゆる能力が求められる。各分野に秀でた人材を集め、それぞれの専門性を生かしながらチームとして協力し合うことができたからこそ、宇宙ビジネスという「総合格闘技」を戦い抜くことができていると実感しています。

    社員たちと話し合う岡島さん(右)
    社員たちと話し合う岡島さん(右)

    ——調整や交渉においては、具体的にどういった難しさがあるのでしょうか。

    岡島 たとえば、人工流れ星の安全性について、国内外のキーパーソンたちに説明して回ったときの経験が象徴的です。私たちは流星源がほかの人工衛星や宇宙ステーションに衝突しないよう、軌道を緻密に計算し、絶対に安全だと自信を持って説明しました。しかし、科学的に「100%安全」と言い切ることは非常に難しい。確率論的に言えば、事故が起こる確率がゼロになることはありません。

    科学的なバックグラウンドを持つ人であれば、「100%はありえない」ということを理解してくれます。しかし、そうでない方にとっては、「100%ではない」という言葉が不安を掻き立ててしまうことがあるのです。「国際宇宙ステーション(ISS)の軌道より上で何かをやられるのは“uncomfortable”(心地よくない)」と言われたこともありました。

    そのときは結局、ISSの軌道高度よりも下の軌道で流れ星を流すことになったのですが、下で実施したからといって事故が起こる確率がゼロにはならないことに変わりはありません。この経験を通じて、「人間社会って難しいな」と痛感しました。人間はやっぱり、科学だけで動いているわけではないんですよね。同時に、社会のさまざまな場面における、科学的なリテラシーを持つ人材の重要性を改めて感じました。

    実験を覗き込む岡島さん
    岡島礼奈さん

    ――困難なことが多い中で、事業を推進し続けるモチベーションをどのように維持しているのでしょうか。

    岡島 事業の社会的意義も、ビジネスとして収益を挙げられるかどうかも大切ですが、自らの「ワクワク」も大事にしています。ALEでは何かを選ばなければならない分岐点において「ワクワク」するかどうかを意思決定の軸にしたり、事業戦略を考えるときも意識的に「普通ではない」方向を選び取ろうとすることが多い。今までの延長上にある宇宙開発をやっても面白くないと思っているし、「自分たちはエッジな立場にいたい」という気持ちがあるんです。

    これはワクワクする仕事、これは収益になる仕事、というふうに割り切って事業ポートフォリオを描くことで、それらを両立することができていると思います。

    ――次回はそんなALEが、人工流れ星で培った技術で新たに挑む小惑星探査と、岡島さんの思い描く「科学への貢献」について語っていただきます。

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    03 人工流れ星の技術を小惑星探査に応用。ALEが宇宙に描く未来と、これからの科学者はどうあるべきか
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