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仕事で生きる学び。熊本大学 工学部の卒業生が語る、働く現場のリアルと半導体の面白さ

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2025.06.27

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野口 理恵
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平郡 政宏

日本の半導体産業の地として注目される九州において、半導体人材の排出に注力する熊本大学。同大学の半導体教育を牽引する熊本大学 半導体・デジタル研究教育機構で教授を務める飯田全広先生の研究室から半導体の世界に飛び込んだ2人の熊本大学卒業生がいます。2023年4月からキオクシア株式会社に勤める中原康宏さんと、2024年4月からソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社(以下、SSS)に勤める岩尾泰希さんです。

今回、恩師である飯田先生とともに、そんなお2人にご登場いただきました。熊本大学での学びはどのようなものだったのでしょうか? また、その学びは実際の仕事でどのように活かされているのでしょうか? これからの半導体産業を支える彼らの等身大の姿を紹介するとともに、半導体の面白さ、そしてキャリアへの思いについて伺いました。

※編集部注:インタビューは2025年3月に実施

半導体人材育成に注力する熊本大学。熊本大学 半導体・デジタル研究教育機構の飯田全広教授の研究室から、半導体業界へと羽ばたいた卒業生、キオクシア株式会社の中原康宏さんとソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社の岩尾泰希さんが登場します。大学時代に学んだ知識、特にハードとソフトの両面を学べた環境、さらに飯田教授のもとで身につけたプレゼンテーション力や課題解決の思考法が、今の仕事で大いに役立っていると振り返ります。英語力や幅広い専門知識の重要性も社会に出て実感しており、大学での学びが土台となることを強調します。飯田教授は「やってみる」精神を忘れずに、変化を恐れず挑戦し続けてほしいとエールを送りました。

Contents

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    大学の学びを社会に出てそのまま生かすことができる

    熊本大学 半導体・デジタル研究教育機構 教授 飯田全広先生

    ──中原さんと岩尾さんは飯田先生の研究室の卒業生と伺っています。まずは、飯田先生が研究されている専門分野を教えてください。

    飯田 Large Scale Integration(LSI/大規模集積回路)、Programmable Logic Device(PLD/ユーザーがプログラムできる集積回路)、Field Programmable Gate Array(FPGA/PLDの一種)のほか、インフォマティクス(情報処理学)などを研究しています。半導体関連の専門分野はかなり広範囲におよぶため、ハードウェアとソフトウェアの両面から研究を行なっています。

    ──中原さんと岩尾さんが飯田先生の研究室に入られた経緯を教えてください。

    中原 大学では、社会に出てから学んだ知識が直接的に活かせる研究に携わりたいと考えていました。手に職をつけるイメージです。その観点を踏まえ、工学部、特に学びの幅が広い情報電気工学科に進学しました。さらに、ソフトウェアだけでなくハードウェアにも興味があったので、その2つを両立して研究できる飯田先生の研究室に入りました。

    岩尾 中学〜高校時代に「工業・技術」という科目があり、半導体の基盤を触る機会がありました。それが好きで、その頃から「工学を学びたい」と漠然と考えていました。熊本大学の情報電気工学科は、電気工学・電子工学・情報工学と幅広く学べるため入学しました。AIと半導体のどちらを研究すべきか悩んだ結果、中原さんと同じく、飯田先生の元での半導体研究であればソフトウェアとハードウェアの両方を研究することができてより楽しそうだと感じ、研究室に入りました。

    キオクシア株式会社 中原康宏さん

    ──中原さんは博士課程、岩尾さんは修士課程を経て社会に出られています。今はどのような仕事をしているのでしょうか?

    中原 キオクシアでフラッシュメモリー関連の業務に携わっています。もう少し具体的にいうと、SDメモリーカードやSSDといった製品をつくる工程ではなく、「それらの製品を使ってできること」を研究しています。感覚としてはソフトウェア開発に近いですね。在籍している部署では、たとえば、大規模言語モデルと検索を組み合わせた記憶検索型AIや、SSDを活用したソフトウェア技術「KIOXIA AiSAQ™(キオクシア アイザック)」などが開発されています。

    現在のフラッシュメモリーの研究と大学時代の研究は重なるところが多く、技術的な面だけでなく、飯田先生から学んだ課題の捉え方や解を導くため思考なども確実に役立っています。大学での学びすべてが今の仕事につながっているとも言えます。

    岩尾 SSSで、Large Scale Integration(LSI/大規模集積回路)の設計開発に携わっています。具体的には、設計開発の中のロジック設計(半導体に搭載する論理回路を設計する作業)の工程です。主にオーディオ製品用の半導体開発に携わっています。

    私も、大学時代の研究と今の業務は一直線上にあります。大学時代は半導体設計後の検証など半導体製造を支援するツール開発に携わっていました。現在の業務では半導体設計そのものに携わっており、主に専門のプログラミング言語を使っています。この言語を大学時代に学んだことはとても役立っています。

    ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社 岩尾泰希さん

    ──お二人とも大学時代の学びが今の仕事につながっているのですね。大学時代を振り返ってみていかがでしょうか?

    岩尾 半導体の世界では、一つの製品に携わっていたとしても、新しい技術が次々と出てきます。絶えず新しい知識を取り込んでいくためにも、そのベースになる幅広い知識が必要になります。ですから私自身は、学生時代にもっと幅広く半導体を学べばよかったと感じています。これから半導体を学ぶ学生には、総合的に大きな枠組みで学んだ後に専門的な学びに入っていくことをおすすめします。

    中原 これは半導体の世界に限った話ではないと思いますが、研究や製品を海外に向けて発表する機会が少なくありません。学生時代にもっと英語の勉強をしておけばよかったですね。コロナ禍と学生時代とが重なっていたので時間はあったのですが……、今必要に迫られて英語の勉強をしています。その点で、熊本大学が導入した、米国政府が世界各国で進めている「高度な英語教育」のサポートプログラムなどは有効な取り組みだと思います。

    また、大学はいろいろな企業や研究所と共同研究をしているので、コネクションがあり、研究予算も潤沢だったことを、就職後あらためて感じました。そのような環境の中で、飯田先生の研究室では、チームで一緒に考え、皆で取り組む楽しさがあった半面、主体性を大事にして研究を任せてもらえていたことが有り難かったです。もちろん悩むこともありましたが、とても貴重な経験をさせてもらいました。

    熊本大学での学びを忘れず、社会でも「やってみる」ことが大事

    ──社会に出てみて戸惑ったことなどはありますか?

    岩尾 私の場合、会社に入ってまず「大学時代に比べると専門用語の略称が多いなあ」と思いました。皆さん当たり前のように使われるのですが、最初は覚えるのがたいへんでしたね。

    中原 それ、私もです! 企業ごとの文化というか、“あるある”なのかもしれませんね。一方、研究自体は、大学時代に比べると扱う製品や研究の方向性がある程度決まっているので、迷いなく取り組めると感じます。

    岩尾 研究に関しては、先輩や他部署の方など、自分の仕事を多くの人に見ていただきフィードバックを得る機会が多くなりました。会社での研究は、大学と違って“ビジネス”ですから、そういった点でのシビアさを実感しています。

    ──ビジネスの現場で、熊本大学での学びが役立っていると感じることはありますか?

    岩尾 大学では、研究自体はもちろん、プレゼンテーションについても多くを学ぶことができました。報告では何をどう伝えたらいいのか、背景や目的はどう明確にしてまとめればいいのかといった、社会に出てからも役に立つ基本的なスキルが身についたと思います。

    中原 プレゼンテーションについては、私も大学時代、何度も指摘を受けたりやり直しに迫られたりしましたね。学会の当日、発表の数時間前に急遽スライドを直したこともありました。とはいえ、プレゼンテーションに力を入れていただいたのも、先のことを考えてのことだったと、社会に出て感じています。

    飯田 私たち研究者は研究して結果が出て終わりではありません。基本的に、その研究結果を社会に知らしめるところまでがセットです。それはどこの研究室であっても同じでしょう。修士課程では、必ず1回以上「研究〜発表」を行なっていますし、中原くんは博士課程でしたから、もっとたくさんのミッションをこなしてきたはずです。その自分で研究〜発表まで進めていける能力を、社会に出てさらに磨いていってほしいですね。

    飯田 また、これは熊本大学の学生全般に言えるのですが、基本的に素直で前向きな姿勢で学びと向き合っていると思います。中原くんも岩尾くんも、いろいろなアドバイスをすれば、それに応えられる学生でした。プレゼンテーションに関する指摘が厳し目になったのも、きちんと応えてくれる能力や姿勢を持っていると感じていたからです。頑張って研究をやり遂げた学生と言えるでしょう。私は自信をもって社会に送り出していますよ。

    ──今後お2人はどんなキャリアを築いていくのでしょうか?

    中原 今、さまざまなAIが登場しているように、AIの需要は世界中でどんどん高まっていくと思います。それに比例するように半導体の需要も高まっていくはずです。半導体の世界がおもしろいところに来ていると感じています。より専門性を深めて、半導体の研究に取り組んでいきたいですね。もちろん、会社の要求に応じた業務もありますから、臨機応変に対応できるようになりたいです。

    岩尾 私が半導体に魅力を感じる大きな理由の一つに、半導体の設計に携わると、自分が使っている製品がどういう処理をして動作しているのかが理解できるということがあります。実際、今携わっているオーディオ製品のノイズキャンセリング機能は、仕事として開発に携わるようになって仕組みや処理を知ることができましたし、さらに興味を掻き立てられます。さまざまな分野の製品に精通するだけでなく、探究心をもって製品開発に取り組める開発者になりたいです。

    飯田 二人からしっかりした言葉を聞くことができてうれしいですね。社会に出たら仕事もプライベートもこれまで以上の責任を追うことになります。一方で、研究者として、現状に満足せず新しいことに果敢にチャレンジしていくことも大事です。変化を恐れないで、変えていくことを意識してほしいですね。こらからの長いキャリアを考えると、新しいやりがいのある仕事もあるだろうし、これ無理かもと思う仕事もあるかもしれません。でも意外と道は開けるものです。研究室時代と同じように、「やってみる」を今後も続けてほしいと思います。

    ──中原さんも岩尾さんも、飯田先生のもとで学んだ経験を活かし、これからの半導体業界を背負っていかれるのでしょう。次回は、お二人の母校である熊本大学が今取り組んでいる半導体人材育成の詳細を、飯田先生に伺います。

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    03 半導体を地場産業とする熊本。熊本大学が切り拓く半導体人材育成の新時代
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