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「半導体不足」から始まった2020年代。半導体業界は今、どんな状況になっているのか

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2025.06.13

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鷲尾 諒太郎
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池村 隆司
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田中 英樹

DXやAIの需要に支えられ、成長を続ける半導体産業。新卒学生の就活や転職の際にも人気が高まりつつある一方、その産業構造は複雑で、各企業の事業内容も多種多様。業界研究を始めるにもどこから手を付けて良いか戸惑う方も少なくないはず。

そんな人のために出版された書籍が『新・半導体産業のすべて  AIを支える先端企業から日本メーカーの展望まで』(ダイヤモンド社)です。半導体の基礎知識から、国内産業の歴史、主要240社の解説も網羅。今回は、この充実した一冊の著者である菊地正典(きくち・まさのり)さんに、「入門書を読むための超・入門知識」をテーマに取材。まずは近年話題となった「世界的な半導体不足」を皮切りに、業界の現状をうかがいます。

『新・半導体産業のすべて  AIを支える先端企業から日本メーカーの展望まで』(ダイヤモンド社)著者、菊地正典さんにお伺いする、「入門書を読むための超・入門知識」。菊地さんによると、2020年代初頭に半導体不足が世界的に深刻化。自動車をはじめ家電や医療機器、社会インフラの生産に大きな影響を与えました。その背景には、DXの進展による需要増に加え、新型コロナによるリモート需要の急増や自然現象など複数の要因があるとのこと。その後、スマートフォンや家電用など一部では回復が進んだ一方、生成AIやEV向けの先端半導体は依然として需給が逼迫している業界の現状があります。

Contents

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    半導体不足が世界に及ぼした、広範囲で深刻な影響

    菊地正典さん

    ——2020年代に入ったころ、世界的な半導体不足がニュースになりました。このことによって、どのような事態が生じたのでしょうか。

    菊地 半導体は、今や身の回りのありとあらゆる製品に搭載されていると言えます。多少なりとも賢い機能を備えた製品が半導体を搭載している確率は、ほぼ100%です。

    たとえば、多機能化した現在の自動車は「走る半導体」と言われるほどです。そのため世界的な半導体不足が起こると、世界中の自動車メーカーが減産、あるいは工場の操業を停止せざるを得なくなり、大きな打撃を受けました。消費者目線でも納車が遅れたり、それに伴って中古車の供給量が減って価格が上昇したりするといった悪影響が生じました。

    半導体不足の影響
    自動車「走る半導体」とも言われるほどさまざまな半導体が多数使われているが、
    特にコアとなる半導体であるマイコン(MCU)の不足

    減産や操業停止

    新車販売数の減少や納車の長期化・中古車の不足や価格上昇
    家電白物家電(冷蔵庫、洗濯機、炊飯器、電子レンジ…)
    黒物家電(テレビ、レコーダー…)が品薄

    生活の利便性、快適性への影響

    給湯器、エアコン、IH調理器、モニター付きインターフォン…の不足

    ライフラインへの影響

    パソコン、家庭用プリンター、タブレット端末、電子ゲーム機…の不足

    在宅勤務やテレワークの普及、在宅の長時間化による生活スタイルへの影響
    医療イメージセンサーほかの半導体不足

    内視鏡ほかの医療機器・医療システムへのマイナスの影響
    社会インフラインターネット、銀行ATM、公共交通網…への影響
    産業界全般上記を含め、深刻な負の影響 さらに半導体不足

    半導体製造装置の不足、ひいては半導体そのものの不足という悪循環
    『新・半導体産業のすべて』(菊地 正典 著/ダイヤモンド社 刊)よりデータを引用し、編集部にて作成

    ほかにも、家電製品や医療機器の製造や、社会インフラを担うさまざまな製品、システムの生産に大きな影響が生じましたし、半導体不足が半導体製造装置の不足を招き、さらに半導体不足が加速するといった悪循環も生じることになりました。

    半導体が不足すると企業の生産活動が停滞するだけではありません。結果的に、私たちの暮らしにおける快適さはもちろん、社会的なインフラや医療など私たちの生命維持に関わる重要な部分にまで悪影響を及ぼしてしまいます。

    2020年頃に始まった半導体不足は、2025年中に解消する?

    ——なぜこのような事態が起こったのでしょうか。

    菊地 2020年代に入る前から半導体不足は指摘されていました。その理由は、世界的なDX(デジタルトランスフォーメーション)ブームです。あらゆることをデジタル化しようという機運が高まり、さまざまな電子機器に対するニーズが高まって半導体を求める企業が増え、不足し始めました。

    そんな状況に追い討ちを掛けたのが、新型コロナウイルスの流行です。企業レベルでも個人レベルでもリモートワークへの対応を進めるべく、電子機器に対するニーズがより高まり、需要と供給のバランスが大きく崩れました。

    さらに、2020年前後は世界中が天災に見舞われた時期でもありました。2020年から2021年にかけて台湾全土が深刻な水不足に陥り、世界最大の半導体受託製造企業である台湾積体電路製造(TSMC)やユナイテッド・マイクロエレクトロニクス(UMC)などの生産活動が大きな影響を受けることになりましたし、2021年にはアメリカのテキサス州が記録的な寒波に襲われ、一帯が長期的な電力不足に陥った結果、サムスンやSTマイクロエレクトロニクスなど、テキサスに半導体の製造拠点を置いていた企業は、同地での生産を止めざるを得ない状況に追い込まれました。

    半導体不足の社会的要因
    コロナ禍以前(〜2020春) 移動通信システムの5Gへの急速な移行
    一般市場でのデジタル化の推進
    コロナ禍以降(2020春〜)在宅勤務、テレワーク、在宅長時間化など生活スタイルの変化

    パソコン、スマホ、ゲーム機などの需要拡大
    2021年2月/中 アメリカテキサス州オースティンでの寒波で電力供給ストップ

    現地半導体工場が数週間以上、生産中止
    2021年2月 台湾で深刻な水不足

    台湾ファウンドリーが減産
    2021年3月  茨城県ひたちなか市のルネサス半導体工場で火災

    3ヶ月以上生産ストップ
    2021年4月、5月 台湾の発電所の事故で電力供給不足

    半導体不足の経済的要因
    コロナ禍以前
    (〜2020春) 
    5Gシフト、クラウドコンピューティング普及、デジタル化推進
    半導体の需要>供給
    コロナ禍以降(2020春〜)ノートパソコン、ゲーム機などのバッテリー動作の電子機器の需要増大

    パワーマネジメントIC不足

    パソコン、テレビなどディスプレイの需要増大

    ドライバーIC不足

    工場の操業短縮・停止、物流停滞など

    半導体サプライチェーンの混乱

    2020年初めまで自動車需要の落ち込み

    車載用の比較的古い枯れた生産ラインを家電用などに振り向け

    2020年秋以降の自動車市場の急速な回復時に、自動車用半導体(MCUなど)の 不足で、2021年に入り自動車各社は減産や操業停止
    『新・半導体産業のすべて』(菊地 正典 著/ダイヤモンド社 刊)よりデータを引用し、編集部にて作成

    ——複数の要因が重なり、世界的に半導体が不足したのですね。

    菊地 その後、徐々に需要に供給が追いつき、2023年にはかなりバランスが保たれている状態になったものの、その回復は「まだら模様」でした。半導体が使われる領域によって回復の度合いが異なったということです。

    具体的には、スマートフォンや家電用といった従来の製造技術で生み出される半導体に関しては、2022年中頃からバランスが取れてきた分野と、2024年頃まで回復に時間がかかった分野がありました。ただ、在庫調整や一部製品の市場拡大の伸び悩みといった影響もあって、ある程度落ち着きを取り戻しているのが2025年現在の状況です。

    また、EV(電気自動車)や自動運転車、AI、メタバースといった分野で求められる、先端技術を用いた半導体については、現在も需要過多の状態です。2024年に入ると一気に生成AIの進化が進み、ニーズもさらに拡大しました。世界の主要半導体メーカーは、これら最先端の半導体製造ラインをつくるべく2020年頃から投資を重ね、2025年半ば以降の稼働が予定されているため、そろそろ需給バランスが整うと見込まれています。

    ——次は、半導体産業の構造などさらに細かな部分をお伺いできればと思います。

    菊地 承知しました。半導体産業の構造や、その中での日本の立ち位置など、よりフォーカスした内容を、次回はお話させていただきますね。

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