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天気予報とは違う? 100以上の仮想地球で導き出す「季節予測」とは
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2026.06.24
- Text
- :鷲尾諒太郎
- Photo
- :平郡政宏

記録的な猛暑や想定外の大雨、巨大化する台風など。近年、異常気象は、もはや異常ではなく日常になりつつあります。そうした変化の中、現実の地球環境をデジタル空間に再現する「地球デジタルツイン」によって、数カ月先の気象予測を研究しているのが、国立研究開発法人 海洋研究開発機構(以下、JAMSTEC)の土井威志(どい・たけし)さんです。
天候の発生源である海洋を観測するセンシング技術と、スーパーコンピューターの進化。これらによって精度が飛躍的に向上しつつある地球デジタルツインを活用し、「今年の春や夏の気象はどうなるのか?」を事前に読みとく技術は、私たちの社会に何をもたらすのでしょうか。連載1回目の今回は、土井さんに気象予測の仕組みについて聞きました。
現実の地球環境をデジタル空間に再現した地球デジタルツインによって、数カ月先の気象を読みとく「季節予測」の研究にたずさわる、国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC)の土井威志さん。
土井さんによると、一般的な天気予報が空を分析して導き出されるのに対し、季節予測は海を分析して導き出されます。海水は大気に比べて熱を蓄えやすく変化が緩やかなため、そのデータを分析することで、長期的な予測が可能になるというのです。
とはいえ、日本を含む中緯度地域は海と空の因果関係が複雑なため、一筋縄ではいかないようです。そこで土井さんらのチームは、条件を少しずつずらした100以上の仮想地球をデジタル空間につくり出し、一斉にシミュレーションを行うことで、より確かな季節予測に挑んでいます。
数カ月先の気象を予測する鍵は、“記憶力”のある海

——まずは、土井さんが研究されている、地球デジタルツインを用いた数カ月先の気象予測について教えてください。
土井:最近では「デジタルツイン」という言葉を耳にする機会も増え、仮想空間につくりだされた、現実世界の双子のようなものといったイメージが一般的になりつつありますよね。ただ、その定義は必ずしも明確化されているわけではありません。私としては、デジタルツインを「現実世界の人びとの行動をサポートする仮想現実」ととらえています。
この定義を踏まえ、私たちの取り組みを端的に言うと、100以上の「仮想地球」をデジタル空間上につくり出し、それらを用いて数カ月以上先の気象を導き出す研究です。明日や明後日、あるいは来週の天気ではなく、次の春や夏といった中長期的な見通しを予測するもので、専門的には「季節予測」と呼ばれています。
——私たちが日常的に利用している「天気予報」とは、何が違うのでしょうか。
土井:一般的な天気予報は、空、つまり大気の状態を分析して数日先までの天気を予想します。高気圧・低気圧がここにあるから台風はこう動くだろうと、大気から明日や明後日の天気を読みといているわけです。
ただ、大気の性質は極めてカオスです。どれだけ正確に現状を把握しても、次の瞬間には予想もしなかった変化が生じることが珍しくありません。その想定外の小さなズレは、時間が経つほどに大きなズレとなるため、基本的には、精度の高い天気予報ができる期間は1週間程度とされています。
一方、私たちが研究している季節予測の鍵を握っているのは海です。海水には、大気に比べて、温まりにくい・冷めにくい性質があります。一度沸かしたお風呂のお湯が、しばらく温かいままなのと同じですね。つまり、海水は非常に多くの熱エネルギーを蓄えることができる。比喩的な言い方をすれば、海は空より“記憶力”がいいのです。
そして、そんな海の温度は、上空の大気にも影響を与えます。この海域の海水温が高い状態にあるから、数カ月先も高いままだろう。であれば、その海域周辺の大気の温度も上がるだろう、と。つまり、“記憶力”のいい海のデータを見れば、数カ月先の気象の傾向が読みとけるわけです。
100以上の仮想地球で導き出す最適解

——海の温度を読みとくだけで、長期的な気象予測はスムーズにいくのでしょうか。
土井:それが、そう簡単ではありません。海と空は密接に関係しているものの、「海水がこの状態なら、上空の大気は必ずこうなる」という絶対的な法則があるわけではないからです。
熱帯地域では一般的に、海水温が高くなると、温められて軽くなった空気によって強い上昇気流ができます。さらに蒸発する海水の量も増えて雲が発達し、雨が降りやすくなるとされています。つまり、温かい海が雨を降らすという海側に主導権のある因果関係がストレートに現れやすいため、季節予測の精度も高くなります。そして、この熱帯地域発の気象は地球全体の気象にも波及し、巡り巡って日本にも影響をおよぼします。
とはいえ、日本を含む北緯30度から60度付近の中緯度地域の季節予測は、一筋縄ではいきません。なぜならこの地域では、海と空の因果関係が逆転し、晴れて日射が注ぐことで海水が温まるという空側に主導権のあるケースが珍しくないからです。つまり、中緯度地域では、海側に主導権のある熱帯地域からの比較的予測しやすい影響と、空に主導権のある比較的予測の難しい影響が混ざり合っているのです。
——そのような難しい季節予測をどのように行なっているのでしょうか。
土井:台風の進路予想などに用いられているものと同じで、「アンサンブル予測」という手法になります。端的に言えば、コンピューターによる多数決です。
予測に用いられる方程式は非常に複雑で、初期値をほんのわずかにずらすだけで結果が大きく変わってきます。台風の現在地を1ミリ単位でずらして設定するだけで、1週間後の位置もガラリと変わる。その予測範囲を3カ月先にまで広げると、条件のわずかなズレが与える結果への影響はさらに大きくなります。
結果の違いが大きくなればなるほど、母数を増やさなければ、共通の傾向をとらえることは難しくなりますよね。そこで、気象に関するさまざまなデータが反映され、かつ、あえて条件を少しずつずらした100以上の仮想地球をデジタル上に再現し、一斉にシミュレーションを行います。そうして得られた結果から、共通の傾向を読みといているのです。
——未来の傾向を掴めるだけのシミュレーション回数が、デジタル上に再現した100以上の仮想地球によって実現したということですね。次回は、そんな地球デジタルツインを支えるテクノロジーについて伺います。
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