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季節予測の舞台裏。海洋観測ロボットとスーパーコンピューターの進化

02

2026.06.24

Text
鷲尾諒太郎
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平郡政宏

地球デジタルツインによる気象予測の最前線。その背景にあるのは、地道な技術革新の積み重ねです。海洋データを収集するためのセンシング技術や、膨大なシミュレーションを処理するスーパーコンピューター。そこに現在、予測の精度を劇的に向上させるAIという新たな武器も加わろうとしています。

連載第2回では、国立研究開発法人 海洋研究開発機構(以下、JAMSTEC)で、デジタル空間につくり出した100以上の仮想地球による「季節予測」を研究する土井威志(どい・たけし)さんに、研究を支える最新テクノロジーについて伺います。

国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC)の土井威志さんらが研究する地球デジタルツインによる季節予測は、テクノロジーの進化と地道な検証の積み重ねによって支えられています。
数カ月後の気象予測に不可欠な海洋データ収集において、かつては係留ブイのコストや管理面が課題でした。しかし現在は、自律型海洋観測ロボット「アルゴフロート」が世界中で約4,000台(日本は約230台)配備され、コスト手間を抑えてデータを収集する不可欠な観測網となっています。
こうして集まった膨大なデータは、初代の約480倍の計算能力を誇るという、第4世代のスーパーコンピューター「地球シミュレータ」で処理されます。さらに近年は、AIの活用もブレイクスルーをもたらしました。気象シミュレーションの自動補正が可能になり、予測の信頼度も示せるようになったのです。

Contents

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    海洋センシング技術が、より確かな「仮想地球」を描き出す

    海洋センシング技術が、より確かな「仮想地球」を描き出す

    ——前回、数カ月後の気象予測の鍵は海にあると伺いました。どのようにして、広大な海の水温データなどを収集しているのでしょうか。

    土井:まず、海の表面水温については、1980年代から人工衛星によってリアルタイムに観測できるようになっています。ただ、エルニーニョ現象(※)のような気候現象をより正確に予測するためには、表面だけでなく水深100m程度のデータが不可欠です。

    衛星からその水深のデータを得ることは難しいため、以前は、特定の海域に錨(いかり)を下ろして固定する係留ブイで測定していました。そのため、メンテナンスのために船を出す手間とコストのほか、海ぞくに盗まれてしまうといった管理上の問題が生じていました。

    アルゴフロートの投入
    アルゴフロートの投入(写真提供:JAMSTEC)©JAMSTEC

    そこで現在、主に使われているのは「アルゴフロート」です。これは、全長約2mの自律型海洋観測ロボットで、各水深における水温データを取るための高精度の温度センサーが搭載されています。船から海に投入されたアルゴフロートは、海流に乗って自ら沈んでいき、水深1,000m付近に留まり漂流します。そして、10日に1度、自ら海面まで浮上しながら水温データを収集し、海面に到達すると人工衛星経由でデータを送信し、また潜っていきます。これを数年間、自動で繰り返すのです。

    ※太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて、海面水温が平年より高い状態が1年程度続く現象

    ——センシング技術などの進化によって、手間やコストを抑えつつ、より多様な海洋データを取得できるようになったのですね。

    土井:そうですね。アルゴフロートは、2005年頃から導入され、現在では世界各国が協力して約4,000台を世界中の海に配備しています。日本では、気象庁やJAMSTECらによって約230台が運用されています。欠かせない観測網ですね。

    ──そうして収集された膨大なデータを活用し、デジタル上につくられた100以上の仮想地球で一斉にシミュレーションを行うとなると、それを行うコンピューターも重要になりますよね。

    土井:はい。JAMSTECでは、2002年から「地球シミュレータ」というスーパーコンピューターを運用しています。これまで4回にわたる世代交代を重ねており、現在(2026年4月)は、第4世代となる「ES4」が稼働しています。現在のES4と2002年に稼働した初代「ES1」の計算能力を比較すると、約480倍もの差があります。

    広い室内に地球シミュレータが並ぶ

    ──その進化で実現した圧倒的な計算能力を使って、どのようにシミュレーションの精度を高めているのでしょうか。

    土井:シミュレーションの精度を高めるためのアプローチには、大きくわけて3つの方向性があります。1つ目は、デジタル上の仮想地球の数を増やします。つまり、前回お話したアンサンブル予測で用いられる母数を増やすこと。2つ目は、極めて解像度が高い精緻な1つの仮想地球をつくり込むこと。そして3つ目は、より多くの方程式を用いて今まで無視していたような現象やプロセスも含めて丹念な計算を実行することです。

    すべてを同時に実施することが理想ですが、それは、最新の地球シミュレータであっても容易ではありません。そのため、私たちは現在、1つ目のアンサンブル予測の母数を増やすアプローチに注目しています。実は、このアプローチも、スーパーコンピューターの性能が劇的に向上したからこそ実現可能になったのです。

    AIがもたらした季節予測におけるブレイクスルーとは?

    AIがもたらした季節予測におけるブレイクスルーとは?

    ──多くの分野において、AIの活用が急速に進んでいます。季節予測の研究にも、何らかのブレイクスルーをもたらしたのでしょうか。

    土井:最大のインパクトは、AIによる補正が実現したことです。AIに、シミュレーション結果と現実との誤差を学習させることで、「どのような条件下で誤差が生じやすいのか」「その誤差にはどのような傾向があるのか」などを、AI自身が判断できるようになりました。それにより、シミュレーション結果に対して、自動補正をかけることができます。

    これは、シミュレーション結果の精度だけでなく、この状況下での予測は信頼性が高い(低い)という信頼度を示せることでもあります。季節予測における極めて大きな進歩と言えるでしょう。

    一方で、AIにはプロセスが不透明なブラックボックス的な側面があります。AIにすべての判断を委ねるのではなく、人が長年積み上げてきた知見と、AIの高度な能力をハイブリッドに組み合わせることが重要です。

    たとえば、アルゴフロートから届く海洋データに基づいて季節予測を行い、その後の実際の気象と比べながら「シミュレーションのどこが間違っていたのか」「どのような観測データが足りなかったのか」といったフィードバックを繰り返すことで予測の精度を上げていくわけです。科学的な検証の目を持ち、こうしたサイクルを回し続けることが欠かせません。

    ——最先端のテクノロジーと人による着実な検証によって、季節予測の精度は高まっていくのですね。次回は、季節予測の具体的な活用事例と今後の展望について伺います。

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