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Sony Semiconductor Solutions Corporation

センシング技術で、「健康」を透視する未来がやって来る?

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2024.02.09

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松本友也
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平郡政宏

ソニーセミコンダクタソリューションズ(以下、SSS)が誇る研究者たちと、ライゾマティクス真鍋大度さんが語り合う会談の第三弾。今回は、さらに近い将来、私たちの生活を変えるだろう技術開発に日夜取り組む、山下和芳(やました・かずよし)さんの研究領域に迫ってみます。

山下さんが取り組むのは、10年後の未来にローンチをめざす将来技術の探求。もうすぐ私たちの目の前に出現する技術とはどんなものなのか。できる限り迫ってみましょう。

山下和芳さんは、ソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)の将来技術探索プロジェクトに従事し、ヘルスケア領域への新規事業の立ち上げを目指している。彼は体内を透かし観る技術を開発し、特に「生体の窓」と呼ばれる特定の波長帯の光を使用して人々の健康状態をチェックできる可能性に焦点を当てている。ウェアラブルもしくは非ウェアラブルのデバイスになるかはまだ検討段階だが、将来的には上半身の特定の部分を観察することで生活習慣病や全身疾患の予兆を検知し、ヘルスケアデバイスとして利用され、QOL(Quolity of Life)向上に繋がることを目指している。山下さんのお話を聞いた真鍋さんは、ソニーのウェアラブルデバイスにおけるさまざまな知見がどういった発想に繋がっていくのかに期待を寄せる。

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    「光」でヒトの健康状態を透かし観る

    ──「将来技術探索」とは、どのような活動なのでしょうか。

    山下 10年くらい先の未来をひとつのターゲットとして、新規事業の立ち上げを目指す社内プロジェクトです。例えば、「10年後の社会はこんなふうになっているだろう」という未来予想を立て、そこから「きっとこういうデバイスに価値があるはず」と逆算してアイデアを生み出しています。その中で私自身が取り組んでいるのは、イメージセンサーやセンシング技術のヘルスケア領域への応用です。

    真鍋 具体的にはどういったものになるんでしょう?

    山下 いわば体の中を「透かし観る」方法を考えているということかもしれません。当然ですが、私たちの眼に映る可視光は皮膚をほとんど通過しませんよね。しかし、ヒトの眼には見えない長い波長の光で、いわゆる「生体の窓」という特定の波長帯なら可視光よりも生体組織を透過しやすいことがわかっています。このようなヒトの眼には見えない光を使ったセンシング技術で、人々の健康状態を簡単にチェックできるのでは、というのが発想の出発点です。

    真鍋 光を使えば、非接触でバイタルデータを取得できるということですね。

    加藤 身近なウェアラブルデバイスだとスマートウォッチなどがイメージに近いでしょうか。

    山下 そうですね。心拍数を測ることが出来るスマートウォッチの裏側からは、緑色のLEDの光が出ていますよね。これは、血中のヘモグロビンが緑色の光を吸収しやすいという性質を利用した検出方法です。この光を通じて血中のヘモグロビン量の変化を観測することで、心拍数を計測する仕組みになっています。

    ちなみに弊社でも、異なる波長の光を同時に撮ることができるマルチスペクトルカメラ向けのイメージセンサーや、人間の眼では見えない非可視光をとらえるSWIR(Short-Wavelength InfraRed)イメージセンサーなどのデバイスを開発しています。今は肉眼ではわからない異物の検出などに役立つカメラとして産業用に用いられていることが多いですが、なにか工夫をすれば人の健康状態を可視化できるのではないかと考えています。

    山下和芳さん
    山下和芳さん

    社外へのヒアリングで、まだ見ぬニーズを拾い上げる

    ──山下さんの研究は、未来に向けた長期的なプロジェクトとのことですが、どのような課題を追いかけているのでしょうか。

    山下 現在は、医療機関の方々や大学の先生がたにヒアリングをしたりとディスカッションを重ねたりしながら、どんなデータが取れればブレイクスルーにつながるのか、そのために必要な技術とは何かを日々様々な仮説を立てながら探っています。

    長波長でセンシングすることで、データを得ること自体は現状でも可能です。ただ、「どんなデータが得られれば私達のヘルスケアに役立つのか」については、まだ手探り状態といえます。人間の体内にはあまりにも多くの情報が詰まっていて、そこから何を切り出すかがむしろ難しいのです。

    真鍋 私も最近は研究者との共同開発が増えてきています。とりわけ先進的な領域については、視点の違いが重要になりますよね。私の場合は浅く広く、あれこれ調べますが、本腰を入れて取り組むならその分野の専門家にコアなところを聞く必要がある。でもそれを形にして人に届けるフェーズでは、自分たちの方が得意なことも多いです。

    加藤 同じ技術でも、使う人によって見方はまったく異なりますよね。

    山下 どんな光を応用するにしても、例えば、化粧品を開発している人なら肌の表皮に近いところを見たがりますし、医師の方々は臓器や血管の状態を見たい。ニーズが絞られれば絞られていくほど、既存の技術だけでは実現が難しいとわかってくる一方で、それが新たな技術開発の動機にもなる。今は、そうやって課題をていねいに拾い上げることが大事と考えています。

    生活に溶け込み、楽しく使い続けられるヘルスケアデバイスを生み出したい

    山下和芳さん(左)、真鍋大度さん(中央)、加藤祐理さん(右)
    山下和芳さん(左)、真鍋大度さん(中央)、加藤祐理さん(右)

    真鍋 「体内をセンシングするなら、ここを見るとおもしろい」というポイントはありますか。

    山下 個人的に「おもしろい」と思うところはたくさんありますが、SSSが着目している部分については機密情報なので、残念ながら今は言えません(笑)。でも今、身体の「ある部分」に着目をして生活習慣病や全身疾患の予兆検知につなげられないか調査を進めています。その「ある部分」を観ることで私たちの健康状態を可視化できると、ヘルスケアに役立ち、QOL(Quolity of Life)の向上につながるのではないか、という仮説を立てて取り組んでいます。

    真鍋 その「ある部分」をセンシングするとなると、やはりウェアラブルでしょうか。非接触でも可能ならおもしろいですね。

    山下 ウェアラブルにするか非ウェアラブルにするかはまだ検討段階ですが、無意識で生活に溶け込む使い方を想定しています。現状の技術だと、どうしてもウェアラブルにしないと高精度の計測が難しいんですが、遠くからでも健康状態の情報を取ることができるようになったら、より生活の中に溶け込めそうですね。

    真鍋 身に着けるデバイスについてはさまざまな蓄積がおありでしょうから、ソニーさんならではの発想にめちゃくちゃ期待しています。

    山下 私たちがめざしているのは、病気になる前にその徴候をとらえ、行動変容を促すヘルスケアです。そのためには、人が使いたくなる仕掛けが大事だと考えています。「楽しいから使っていたら、結果的に健康でい続けることができた」なんて理想ですね。近い将来にそんな製品を生み出せるよう、試行錯誤を続けていきます。

    真鍋 この取材も何かのご縁だと思いますから、ぜひこれからも情報交換やコラボレーションができたらうれしいですね。

    山下 そうですね、真鍋さんの活動からインスピレーションをいただくことも、この先数多くあるように思います。

    加藤 夢想している未来の実現に向け、これからも邁進していきます。ぜひ、お力添えをいただけたら幸いです。

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