sponsored by
Sony Semiconductor Solutions Corporation

デジタル社会の裏にあるリアルな資源が企業価値の源泉

03

2025.04.22

Text
橋本淳司
Illust
髙城琢郎

1990年代、熊本県では「地下水の減少」が地域の不安を呼び、原因を究明した結果、工業ではなく水田の減少が主因であることがわかりました。そこから、地下水を見える化し、守る文化が根づいていきます。

その時期に熊本県へ進出したのが、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング株式会社です。半導体製造に水を使うだけでなく、田んぼや畑から水を地中に“返す”ための地下水涵養事業をスタートさせました。この試みは、他の半導体メーカーにも広がり、のちに「ウォーターポジティブ」というグローバルな概念にも通じていきます。

水を守るという発想は、今や企業の価値そのものを支える時代に入りました。最先端のテクノロジーの裏側にある、水というリアルな資源とのつながり──その現場を熊本に見つめます。

1990年代、熊本県で地下水の減少が問題となり、調査の結果、雨水や河川の水を地中にゆっくりと浸透させる地下水涵養の役割を果たしていた水田の減少が主因と判明しました。以降、熊本では地下水を見える化し、守る制度や文化が根付いてきました。熊本に進出したソニーセミコンダクタマニュファクチャリングは、田畑を活用した涵養事業を開始。地下水を育む取り組みは、地域の農家や行政と一緒に今も継続されています。国内外で高く評価され、さらに「ウォーターポジティブ」という国際的な概念ともつながっています。最先端の半導体産業も、実は水というリアルな資源に支えられており、環境への配慮は企業価値や信頼性の向上に直結するのです。

Contents

    エックス Facebook

    「減る地下水」の原因は水田の減少にあった

    1990年代、熊本県では地下水の減少が目立つようになり、地域の人びとの間で「このままではいけない」という問題意識が高まっていました。最初は工場などで使われる地下水のくみ上げが原因ではないかと考えられていましたが、詳しく調べてみると、意外な事実が明らかになりました。主な原因は工業ではなく農業、特に水田の減少にあったのです。

    お米を育てる田んぼに貯められた雨水や川の水は、時間をかけてゆっくりと地中にしみ込んでいきます。つまり、水田は天然の「地下水を補う装置(地下水涵養装置)」として、大切な役割を果たしていました。ところが、時代の変化とともに水田の多くが住宅地や畑などに転用され、水が地中に戻る機会が減ったため、地下水の量も少しずつ減っていったのです。

    この調査をきっかけに、熊本県では地下水の構造や流れ(=水系)を調べ、水の動きを「見える化」しながら、地下水を守る体制と意識が地域全体に広がっていきました。

    サステナブルな半導体製造は田んぼに支えられている

    大量の水を使う半導体製造にとって、工場ができる前から、地域に水資源を守る取り組みがあったことは、非常に重要な意味を持ちます。

    2003年度から、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングは、日本企業として初めて、田んぼや畑を活用した地下水涵養事業を始めました。この取り組みでは、河川「白川」の中流域にある「ざる田(ざるのように水が地中にしみ込みやすい田んぼ)」と呼ばれる地質特性を活かし、作物を作っていない時期に川の水を田んぼや畑に引き込み、ゆっくりと地下に浸透させるという方法がとられました。

    田畑を利用した地下水涵養の取り組み
    田畑を利用した地下水涵養の取り組み

    この活動は、企業が使った水をきちんと地域に返すという姿勢を具現化にしたものです。地域の農家、行政、NPOなどと連携しながら今でも続けられており、2023年度には357万トン(前年度比+5%)もの水が地下に戻されるまでになりました。「熊本の宝である地下水を守る」という共通の目標に向かって、企業・農家・行政が一丸となって改善サイクルを回していく、多くの人の協力がなければ成り立たない規模の取り組みです。

    こうした地下水を守る取り組みは、国連や国際的な環境団体など、世界からも高く評価されています。たとえば、熊本県の地下水保全の取り組みは「2013国連“生命の水”最優秀賞」を受賞。また、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングが行う地下水涵養活動事業は、国連「生物多様性の10年」日本委員会からも正式に認定を受けています。

    地下水涵養田での田植えイベント作業風景
    地下水涵養田での田植えイベント作業風景

    「地下水を返す」という発想の先進性

    先述のような“水を返す”という考え方は、企業の新しい社会的責任のかたちとして、日本から世界に向けて発信されたともいえます。実際、この考え方は「ウォーターポジティブ(Water Positive)」という言葉とともに、現在、世界の企業に広がりつつあります。

    たとえば、Instagramを運営するメタ社は、米国各地にデータセンターを構えており、サーバーの冷却のために大量の水を使用しています。同社は、水を効率的に使うだけでなく、施設があるニューメキシコ州やカリフォルニア州など6つの州で湿地の保全や水の涵養プロジェクトを実施し、年間32万トン以上の水を地下へしみ込ませ、地下水を増やしていると報告しています。

    今、世界で広がる「企業が使う以上の水を、自然に戻す」という活動。その先駆けともいえる取り組みが熊本県の田畑ですでに実践されていた──そう考えると、私たちの足もとにある協働の力が、世界の環境への考え方を動かすヒントになっているのかもしれません。

    ウォーターポジティブの考え方
    ウォーターポジティブの考え方

    デジタルの裏にある「リアルな水の世界」

    クラウド、AI、メタバースなど、今の時代は「デジタル」と呼ばれる見えない世界がどんどん広がっています。まるで情報だけが空間を動き回り、すべてがオンラインで完結するかのように見えるかもしれません。

    しかし、実は、そんなデジタルの世界にもしっかりと「現実の土台」があります。それが、土地、水、空気、そしてエネルギーといった見える資源です。どれか1つでも欠けてしまえば、私たちのデジタル生活は成り立たなくなります。

    特に半導体は、「産業の米」とも呼ばれるほど重要な存在で、最先端のテクノロジーを支えます。

    そして、その半導体をつくるには、大量の水が欠かせません。「超純水(ちょうじゅんすい)」がなければ、半導体を洗うこともできず、製造ラインは止まってしまいます。つまり、この最先端の産業も、水というリアルな資源の上に成り立っているのです。世界を支えているのは、田んぼにしみこんだ一滴の水かもしれないのです。

    環境への貢献が企業の競争力に直結する

    環境に貢献することは「コスト(負担)」ではなく、「価値」の源泉と見られる時代になりつつあります。環境と向き合いながら企業活動を進めていくことが、これからの時代の企業価値をつくる大切な力になります。それは、環境へのやさしさだけではなく、企業がこれからも成長し続けていくための「生き残り戦略」ともいえるでしょう。

    私たち消費者も「どの企業が社会や地域と本気で向き合っているのか」を気にするようになりました。いいかえれば、企業の環境への貢献は、信頼や応援につながる大切な要素になったのです。

    今や、半導体産業は世界のあらゆる活動を支える重要な産業であるからこそ、水の使い方に誠実であり続け、地域と一緒に資源を守る企業は、その姿勢そのものが信頼と透明性を高める「強み」になります。

    「資源を使うこと」と「資源を守ること」の両立が企業に求められる今、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングにおいても、地球環境が健全であることと、人びとが安心して暮らせる社会を前提に事業活動が成り立っており、地元農家や地域住民との信頼関係の構築が何より重要だと考えられています。

    水という測りにくい資源に目を配り、地元の人びととていねいに対話しながら、未来につながる仕組みをつくっていく姿勢。積み重ねる一つひとつの取り組みは、たとえ小さくても、「企業活動も水循環の一部である」という考え方を社会に広げていく大切な一歩になるはずです。

    Earth Day(アースデイ)に考える地球環境の未来。ソニーセミコンダクタソリューションズのサステナビリティ活動(sony-semicon.com)

    この記事にリアクションする

    1 2 3
    Mail Magazine 新着記事情報やオリジナルコンテンツを毎月配信中

    latest articles

    View All