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ものづくり太郎と語る生成AIとハードウェアのイノベーション
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2024.10.16
- Text
- :高橋 ミレイ
- Photo
- :平郡 政宏
ビッグデータの増加やクラウド化、さらに近年の生成AIブームの影響により、データセンターにおけるストレージ拡張の必要性がますます高まっていく中、記憶装置となるハードディスクドライブ(HDD)の需要が急増しています。
そうした市場の潮流を読みながら、米国のHDDメーカーであるシーゲイト・テクノロジー(以下、シーゲイト)とともに、HDDの記録密度を飛躍的に向上させるカギとなる新型半導体レーザーの開発を担っているのが、ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社(以下、SSS)です。
今回、認証企業やメーカーでの実務経験を持ち、現在は国内外の製造業に関する情報を発信するYouTubeチャンネル「ものづくり太郎チャンネル」を運営するYouTuber・ものづくり太郎さんと、新型半導体レーザーのビジネス責任者であるSSSの谷口健博さんが、ハードウェアのイノベーションをテーマに対談しました。
生成AIの普及により、データ処理の需要が急増し、データセンターの容量拡張が不可欠となっています。一方で、生成AIのビジネスポテンシャルについては明確なデータが不足しており、今後2〜3年で定量的な分析が行われると予測されています。こうした中で注目されているのが「熱アシスト磁気記録技術(HAMR)」であり、HDD1台あたりの記録容量を増やすことができる半導体レーザーです。データセンターのストレージ需要にも応えるこの半導体レーザーは、ソニーセミコンダクタソリューションズとシーゲイト・テクノロジーによる15年にわたる共同開発で実現しました。
AIの活用が進むと、データセンターが足りなくなる?
──データセンターの容量拡張が求められていると伺いました。その背景と課題について教えてください。
ものづくり太郎(以下、太郎) データセンターの容量拡張が求められる背景には、今後も増加するAIのデータ処理需要があるといわれています。とはいえ、一筋縄にいく話ではなく、多くの課題があると思います。技術的なハードルに加えて、たとえば、消費電力を効率化しCO2排出量を減らすといったことも求められています。アメリカでは、再生可能エネルギーを利用した発電所の建設も進んでいるようですね。
谷口 2023年は、まさに「生成AI元年」でしたよね。従来のAIの進歩とは異次元の技術革新によって、生成AIは急速に普及しつつあります。ただ、生成AIが今後どの程度のビジネスポテンシャルを持つのかについては、具体的なデータがまだ揃っておらず、テック系のリーディングカンパニーや調査会社でも正確な予測はできていません。
太郎 まさに生成AI元年でした。かつ、おっしゃる通り、今後のポテンシャルについてはまだ未知数ですね。
谷口 おそらく、2〜3年後には定量的なデータを基に生成AIを取り巻く状況と方向性が、具体的に語られるようになっているととらえています。生成AIの普及によってそれが各産業でどう使われていくかは、今後明らかになっていくでしょう。
先の見えない状況でこそ、明確なビジョンが道しるべとなる
──生成AIが社会に与える影響に関しては、まだはっきりとしていないことも多いのですね。
谷口 そうです。ChatGPTのようなAIツールは、どんな問いに対してももっともらしい答えを効率よく返してくれるため、非常に便利ですよね。今後さらにAI活用が進んでいくと思うのですが、これからは使う側が目的や目標を明確にすることが大切だと思っています。そうしないと、ツールであるはずのAIと人の立場が逆転してしまう危険性がある。
今後どのような影響が出てくるのかはっきりしないなかでも、僕がチームのメンバーに常に伝えているのは、「まずは、ものづくり企業として本来めざすべき姿を明確にすることが重要」ということです。ものづくりに携わる者としては、常に道しるべとなるビジョンを持ち、理想を追求し続けなければなりません。
太郎 ビジョンやストーリーは非常に重要ですよね。ちなみに僕は、製造業におけるAI活用のカギは、CADによるモデリングにあると考えています。
2023〜2024年の海外取材で、制御機器がChatGPTと統合されている事例を目にしました。従来、制御機器の設定は制御コードを一つひとつ手作業で記述していましたが、米国や欧州では、2023年時点で制御コードの約3割がChatGPTによって自動生成されていたんですね。2024年はさらに進化して、たとえば、装置設計時に要件定義をLLM(大規模言語モデル。Large Language Modelsの略)を実装したプラットフォームに学習させることで、即座に出力が得られるようになりました。
2〜3年後には、装置のCADモデルを入力するだけで、「これが最適な制御方法です」といった回答が得られるかもしれません。そうなったら、人の手による作業はほぼ必要なくなるでしょう。
もう一つお話したいのは、フランスのコンサルティング会社であるキャップジェミニが、欧州最大級のソフトウェア会社や、CADの大手メーカー3社とコラボレーションをして最適なCAD設計を実現すると発表したことです。
なぜコンサルティング会社がそのようなことをできるのか尋ねたところ、キャップジェミニは9万人のエンジニアを擁する企業を買収したと。最新のトレンドを取り入れた上で、AIとのコラボレーションが可能な設計技術者を各メーカーに派遣する計画があるようです。
──ハードウェアの設計や製造を生業とする企業には、なかなか刺激的なお話ではないでしょうか。AI活用が進んだ先で求められるハードウェアのイノベーションについて、谷口さんのご意見はいかがですか。
谷口 そうですね。私たちとしては、まずストレージという分野でAIの発展を支えていくことになろうかと思います。
データセンターはこれまで、通信速度の向上に伴って手元にあったデータを拡張性のあるクラウドに移行する流れによって大きく発展してきました。このままでもデータセンターのストレージ需要がもっと高まっていくことは間違いないのですが、AIの活用が広がっていくと、取り扱うデータ量がさらに大きく増え、それを記録するストレージに対するニーズがもっともっと高まっていくかもしれません。
その中にあって私たちがめざしているのは何かというと、HDD1台当たりの容量を増やすことです。実現すれば、データセンターが巨大化するスピードを鈍化させることができ、先ほどものづくり太郎さんが指摘された「環境負荷の抑制」といった側面から社会課題に応えることもできます。
このHDD1台当たりの容量を増やすためのカギが、熱アシスト磁気記録技術(HAMR/Heat Assisted Magnetic Recordingの略)であり、私たちがシーゲイトと約15年にわたって一緒になって開発してきた、そのHAMR方式に不可欠な半導体レーザーです。
太郎 熱アシスト磁気記録技術ですか? 初めて耳にした言葉ですが、とても興味深いです。長年にわたって開発に取り組まれた半導体レーザーがどんな技術なのか、詳しく聞かせてください。