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データセンター市場に革命をもたらす!HAMR向け半導体レーザーの技術的優位性

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2024.10.16

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高橋 ミレイ
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平郡 政宏

熱アシスト磁気記録技術(以下、HAMR。Heat Assisted Magnetic Recordingの略)向け半導体レーザーは、データセンターにおける長年の課題であったハードディスクドライブ(HDD)の記録密度向上を実現するために開発されました。

今回は、その半導体レーザーの開発をリードした、ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社(以下、SSS)の谷口健博さんと、国内外の製造業に関する情報を発信するYouTubeチャンネル「ものづくり太郎チャンネル」を運営するYouTuber・ものづくり太郎さんが、HAMR向け半導体レーザーの特長や社会に提供する価値を深掘りしていきます。

データセンターのストレージ拡張実現のカギとなるのが、HDDの記録密度を飛躍的に向上させる熱アシスト磁気記録技術(HAMR)方式の半導体レーザーです。HAMR方式の半導体レーザーは、記録時の局所加熱で保磁力を一時的に低下させ、高密度のデータを安定的に記録します。将来的には、3.5インチのHDD1枚あたりの記録容量は最大5TBまで増加し、コストやエネルギー効率の改善も期待されています。SSSが15年にわたる開発を経て量産体制を整えつつあり、2030年にはデータセンターのHDDの約70%がHAMRに置き換わると予測されています。

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    ビットコストの低いHDDの記憶容量を倍増させる半導体レーザー技術

    ものづくり太郎(以下、太郎) 先ほど、HDDの記録密度を増やす半導体レーザーを開発されたと伺いました。先にお伺いしたいのですが、HDDとSSD(ソリッドステートドライブ)の競争はないのでしょうか。

    谷口 確かに、プロジェクトの初期は社内でもそのような指摘をたびたび受けました。「これからの時代はSSDだ、HDDはもう終わりだ」と。しかし、実は、この議論の決着は10年くらい前についているんです。データセンターのストレージにおいて、HDDが完全にSSDに置き換わることはなく、今後もずっとHDDが主流であり続けるというのが業界内の常識です。

    谷口健博さん
    谷口健博さん

    太郎 意外でした。それはなぜですか。

    谷口 大きな理由の一つは、ビットコスト(1ビットのデータを保存するためのコスト)の違いです。製造や運用の合計コストを比べると、SSDはHDDより約1桁近く高くなります。そのため、データセンターのストレージはほとんどがHDDで運用されており、SSDは特殊な用途で限定的に使われているそうです。

    太郎 なるほど。データセンターでの需要と私たちが日常使いをするデバイスでの需要はまったく異なるものなのですね。ところで、谷口さんたちが開発された半導体レーザーは、具体的にどのような技術なのでしょうか。実装されていくと社会はどう変わっていきますか。

    谷口 従来の垂直磁気記録(以下、PMR。Perpendicular Magnetic Recordingの略)では、記録密度の向上が何年も前に頭打ちになっていました。そのため、PMRを補完する比較的新しい書き込み方式である瓦記録(以下、SMR。Shingled Magnetic Recordingの略)でどうにか記録密度を上げてきたのですが、この方式はデータの書き込みシーケンスの複雑さなどの課題があり、こうした背景から、PMRに代わる新しい技術が求められてきました。

    太郎 既存路線でこれ以上記録密度を上げるのは難しかったということですね。

    谷口 そうです。その状況を打開したのがHAMRです。記録密度を上げていくと、記録したデータが不安定になってしまいます。そこでせっかく記録したデータが不安定にならないように高い「保磁力」を有するメディアに記録する必要があります。ところが、高い保磁力を有するメディアは、記録を書き込みづらいという難点があるのです。

    HAMRは半導体レーザーによってHDDを局所的に加熱し、加熱した領域だけ保磁力を一時的に下げてデータを記録しやすくします。これにより、非常に小さな領域に確実にデータを記録できるだけでなく、冷却されると記録されたデータが安定定着します。

    PMRでは3.5インチのHDDのディスク1枚あたりで容量2TB(テラバイト)程度が物理的な限界でしたが、HAMRでは3TBまで飛躍的に高めることができました。今後はHAMR自体の記録密度も向上してゆきますし、そこへSMRを組み合わせて使うことで、さらに記録密度をあげて、2027~2028年には、5TBまで伸びていくだろうといわれています。

    太郎 記録密度が上がるということは、つまり、ストレージの容量増大に加え、コストやエネルギー効率の向上も当然期待できるということですよね。環境負荷を増やさないための解決策の一つにもなるでしょう。

    ものづくり太郎さん
    ものづくり太郎さん

    半導体レーザーが世界を支えるインフラになる

    太郎 半導体レーザーによってHDDにデータを書き込むときだけ温度を上げるわけですね。その照射精度はどのくらいですか。

    谷口 1ナノセカンド(1秒の10億分の1)以下でコントロールしているそうです。

    太郎 それはすごいですね! しかもリアルタイム制御ですよね。

    谷口 はい。HAMRを長年実用化できなかった理由の一つに、そのレーザー照射制御の難しさもあります。ほかにもたくさん極めて難易度の高い技術ハードルがあるのですが、そのようにものすごく難しい技術なので、ウェスタンデジタルや東芝といったHDDメーカーは「HAMRは非現実的だ」と別の方式の技術に注力していたのです。

    一方、シーゲイトは早い段階からHAMRに注力して脇目もふらずに開発に取り組んできました。ポーカーでいうと「オールイン」ですね。そのように社運を賭けてHAMRに取り組んできた顧客のパートナーになれたことは、私たちにとって幸いでした。ただ、この技術の開発に約15年もの年月を要することになってしまいました。

    HAMR向け半導体レーザー
    HAMR向け半導体レーザー

    HDDの世界は、新しい技術を生みだすのに10~20年といった歳月がかかります。2024年がHAMR元年だとすると、ここから10年以内に新しい技術が出てくることはまずないでしょう。逆に言えば、私たちはこの技術を最低でも今後10年は支えないとなりません。インフラを支えるのと同義の、大きな社会的責任を負っていることになります。

    太郎 だから収益化できるというビジネス的な側面もありますよね。これからは、PMRがHAMRに置き換わっていくのでしょうか。

    谷口 調査会社の情報を元にした私たちの予測では、2030年までの間に約70%がHAMRに置き換わると見込んでいます。HAMRの需要は、2030年前には年間1億台くらいになると予想していますが、HDD1台あたり20個の半導体レーザーが使われるため、年20億個も半導体レーザーをつくらないといけない。ちなみに、DVDが最盛期だった時代にソニーが製造していたレーザーは年間約2億個でした。

    太郎 その10倍ということですか!

    谷口 そうです。ですから、HAMR向けの半導体レーザーは、その開発だけでなく量産のための製造技術も一から構築する必要がありました。まったく新しいものが求められてきましたが、長い年月をかけてチーム全員が頑張ってくれた結果、現在は量産体制を整えつつあります。

    太郎 どうやって実現できたのか、もっと詳しく知りたいです。

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