02 /03

研究室の壁を超えていく。東北大が挑む共創のリアルと、学びを開放する「S-Hub」

2026.09.18

Text
相澤良晃
Photo
平郡政宏

多くの分野でAIの活用やスマート化が進む今、半導体はもはや一部の専門家だけの領域ではありません。「アイデアはあるが、どこに相談すればいいのか」と頭を抱える企業、「自分の研究は社会のどんな製品に生きるのか」「半導体の世界に飛び込むには何から学べばいいのか」と悩める研究者や学生。

そうしたニーズや熱意に応えるため、東北大学が有する国内屈指の研究開発リソースは、いかに開放され、機能しているのでしょうか。

産学連携の事例と、共創プラットフォーム「東北大学半導体テクノロジー共創体」から生まれた人材育成部門「東北大学半導体クリエイティビティハブ(以下、S-Hub)」について、東北大学 理事(産学連携担当)の遠山毅(とおやま・つよし)さんと、東北大学 マイクロシステム融合研究開発センター 教授/センター長の戸津健太郎(とつ・けんたろう)さんに伺いました。

東北大学は、AIの普及やプロダクトのスマート化が進む現代において、半導体分野における産学連携を、素材・フォトニクス・センシングなど多様な分野にわたって推進しています。大手企業からベンチャーまで幅広いパートナーと共創する中で、研究室発の技術を実製品へと結実させたボールウェーブ社のような事例も生まれています。

また、半導体人材の育成へも、その国内屈指の半導体研究リソースを解放。2024年に設立した、半導体テクノロジー共創体から生まれた人材育成部門「S-Hub」では、eラーニングや実習、教育コンテンツライブラリーを整備し、高専生・大学生・社会人・教員などの学びをサポートしています。半導体の裾野を広げ、日本の半導体産業全体の底上げを目指しています。

Contents

    Mail magazine Mail magazine

    研究室で生まれた技術が、世界の現場へ羽ばたく。連携から始まるロードマップ

    研究室で生まれた技術が、世界の現場へ羽ばたく。連携から始まるロードマップ
    マイクロシステム融合研究開発センター 教授/センター長 戸津健太郎さん

    ――東北大学における産学連携では、具体的にどのような成果が生まれているのでしょうか。

    戸津:大手からベンチャーまで、幅広い企業と共同で研究や製品開発に取り組んでいます。共同研究を進めていくうちに新たにベンチャーが生まれることもありますね。

    センサー開発のボールウェーブ株式会社はその好例です。もともと、評価・測定の分野を研究してきた本大学の教授が大手印刷会社と共同で、小型・高速・高感度を実現するセンシング技術である球状センサーの研究・開発を行っていました。ただ、このプロジェクトは、技術を製品化する前に印刷会社側の事情で中止となってしまいました。

    そのプロジェクトを引き継ぐかたちで設立されたのが、ボールウェーブ社です。同社は半導体の製造工程で使用されるガス中に含まれる、わずかな水分も感知できる計測器である、高感度小型微量水分計「Falcon Trace」の製品化に成功。現在、大手半導体企業の製造工場でも使われ始めています。

    研究室で生まれた技術が、世界の現場へ羽ばたく。連携から始まるロードマップ
    東北大学 理事(産学連携担当) 遠山毅さん

    ――大手企業とは、どのようなプロジェクトが動いていますか。

    戸津:たとえば、材料関係の大手企業とは、フォトニクス分野において、材料技術、半導体微細加工技術、光半導体技術を融合させて、高速光通信やセンシングの新たなソリューション創出を目指しています。企業の材料と加工に関するコア技術と、大学の半導体微細加工技術を掛け合わせて、次世代の光応用デバイスを創出すべく、取り組んでいます。

    遠山:AIの普及やプロダクトのスマート化によって、新製品や新サービスのアイデアを突き詰めていくと半導体にたどりつくケースが増えています。また、「どこにどう相談したらいいかわからない」という企業側の悩みに対しては、東北大学産学連携機構(※)が窓口となり、企業と研究者をつなぐ役割を果たしています。

    戸津:こうした多種多様な企業とのプロジェクトに東北大学の研究者が参画することは、次世代の人材育成という視点から見ても大きな意義があります。実社会の生きたニーズやアイデア、最先端の課題などが大学へフィードバックされ、学生の学びやカリキュラムの質向上へと還元されていくからです。教育という側面からも、こうした共創は今後も推進していきたいですね。

    ※ 分野を問わず、東北大学と企業との共創を統括・推進する組織

    半導体の裾野を広げるコンテンツで、学生の「学びたい」に応える「S-Hub」

    半導体の裾野を広げるコンテンツで、学生の「学びたい」に応える「S-Hub」

    ――東北大学半導体テクノロジー共創体では、半導体分野の産学連携を推進する一方、学生などに向けた教育プログラムも幅広く提供していると伺っていますが、どのようなプログラムなのでしょうか。

    戸津:2024年に共創体の人材育成部門としてS-Hubを立ち上げました。S-Hubの役割は、東北大学が有する半導体リソースを活用しながら、内容の充実やスケールアップを図り、より幅広い半導体人材を育成することです。2025年からは、企業で活躍していた研究者などを専任の教員として迎え、さまざまな教育コンテンツやプログラム、半導体実習・体験の場を提供しています。

    S-Hubが企画した半導体実習の様子(写真提供:東北大学)
    S-Hubが企画した半導体実習の様子(写真提供:東北大学)

    たとえば、「eラーニング半導体基礎講座」では、半導体の基礎知識から実践的な製造技術までオンラインで学べます。その内容は、半導体研究者である教授陣の理論知識と、業界の第一線で活躍してきた講師陣による実践論を組み合わせたもので、主に高等専門学校生や大学の理工系学部生、半導体分野への就職をめざしている方などが対象です。より高度な内容を扱う「eラーニング半導体応用講座」は、主に理工系の大学院生を対象に開講しています。これらのeラーニングは今年開始したものですが、これまでに学生約300名と社会人約50名に利用されてきました(2026年6月時点)。

    また、「半導体教育コンテンツライブラリー」は、大学・高等専門学校の教員を対象とした会員制プラットフォームで、授業で活用できる教育動画を提供しています。その背景には、日本の半導体産業は20年ほど右肩下がりの時代が続いたため、半導体を専門とする先生が減少し、「半導体を教えたくても教えられる人材が不足している」という教育機関の問題があります。このライブラリーでは、大学で行われた講義動画のほか、クリーンルームでの装置稼働の様子など、授業に活用できる多様なコンテンツを配信しています。

    ――eラーニングから実習まで、学ぶ側にとって貴重な機会の提供ですね。そのような取り組みが、これからの半導体産業にどのような影響をおよぼすことを期待していますか。

    戸津:もちろん、「半導体に強い東北大学で学びたい」という学生を増やしたいという思わくはあります。しかしそれ以上に、半導体のすそ野を広げたいという思いが強いですね。半導体に興味を持つ人が増えることで産学連携の共同研究も活発になり、社会実装のスピードも上がる。ひいては、日本の半導体産業全体の活性化につながるはずです。

    2026年8月からは、東北大学MOOC「半導体入門~未来を創るテクノロジー~」と題した、オンラインの入門講座も開講しています。第一線で活躍する研究者が半導体の歴史や研究、半導体産業の未来などを分かりやすく説明する内容になっているので、ぜひ多くの方にご利用いただきたいと思います。

    ――次回は、研究者であり社会実装の担い手でもある、求められる半導体人材について伺います。

    この記事にリアクションする

    Follow Us

    新着記事情報や、
    インタビュー動画を配信中

    半導体で、未来を灯す ソニーセミコンダクタソリューションズは共に歩む人材を求めています View More
    TOP