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イメージング&センシングは感情の技術になる?技術者が夢想する世界とは
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2024.08.02
- Text
- :相澤 良晃
- Photo
- :井川 拓也
半導体技術者の夢想を起点に、技術の魅力に気付くきっかけの物語を生み出すことはできるのか。前回はイメージング&センシング技術の研究開発に取り組む松浦さんと河野さんに、それぞれの仕事内容について語っていただきました。
今回は、SF作家の高山羽根子さんと2人の技術者が、「イメージング&センシング技術の進化でめざしたい未来」について語り合います。
高山羽根子さんと技術者の松浦良さん、河野壮太さんによる議論では、イメージング&センシング技術の未来について探求されました。松浦さんは、今後のイメージセンサーの進化が感動を引き出す高画質化に焦点を当て、デジタル一眼レフカメラを超える技術目標を説明しました。河野さんは、一眼カメラとセンシング技術が社会全体に及ぼす影響について論じ、交通事故ゼロや健康管理の進展に寄与する可能性を述べました。さらに、高山さんは技術の進展が社会的な安心と安全を促進する未来像に期待を寄せています。
人の感情に訴えかけるための高画質化が進む
高山:先日、学生時代に使っていたガラケーで撮影した祖母の写真を見る機会があって、写真サイズがすごく小さくてビックリしました。「当時の私は、こんな小さくて画質の粗い写真に感動したり、物語を感じたりしていたんだ」と思って。今はスマホですごくきれいな写真が撮れますよね。今後、さらに画質の向上をめざしてイメージセンサーの開発が行われていくのでしょうか?
松浦:たしかに今でも十分にきれいな写真が撮れますが、モバイル用イメージセンサーはまだまだ発展の余地があります。SSSとしては「イメージング技術で“感動”を呼び起こす」ことをめざしており、デジタル一眼レフカメラを超え、最終的には「人の眼を超えること」を目標にしています。ですから、ただ単に画素数を増やして画質を向上させるだけでなく、たとえば人の眼にはとらえられない光を映し出せるようダイナミックレンジを広げるとか、“瞬間”を切り取って躍動感を伝えられるようシャッタースピードを向上させるとか、“人の感情により訴えかけるための高画質化”が今後の進化軸になると思います。
スマホ以外でいえば、イメージセンサーの進化はAR(拡張現実)やVR(仮想現実)の普及にもつながると思います。最近は、空間にデジタルコンテンツを映し出して操作するゴーグル型XRヘッドセットなども登場し始めていますが、重量があり、日常的には使いづらいという声も上がっています。たとえば、イメージセンサーを軽量化できれば、当然、デバイスも軽くなりますし、将来的にはイメージセンサーの技術を発展させて、コンタクトレンズ型のディスプレイ、あるいは網膜に直接映像を投影するということも実現できるかもしれません。SSSのイメージング&センシング技術がAR/VRの発展に貢献できることは多いと思います。
河野:私の担当している一眼カメラ用のイメージング領域では、「感動をリアルタイムで共有する」というのが、ひとつの開発のキーワードになっています。SNSやYouTubeに投稿する動画を一眼カメラで撮る人も増えていて、「リアルタイムで躍動感ある動画を届けたい」というニーズが高まっているんです。そのため、一眼カメラの進化軸としても、やはり「高感度化」「オートフォーカスの高速化」といった王道路線は外れずに、“映像を見た人が感情移入できるような高画質化”を追求していくことになります。
一方、センシング領域では、近い将来に社会を一変させるような進化の可能性を秘めてると思います。たとえば、今は自動車に周囲空間を認識するセンサーがどんどん搭載されているのですが、その車載センサーと信号機や道路、あるいは商業施設のセンサーと連携すれば、事前に渋滞を察知して回避できるようにもなるはずです。さらに歩行者もセンサーを身につければ、交通事故ゼロ社会の実現も夢ではないでしょう。ほかにも気温、圧力などを測定する多種多様なセンサーとSSSのセンシング技術が融合していくと、交通だけでなく、社会全体の発展に寄与できるのではないかと思います。
高山:病院の待ち時間の緩和とか、救急車のルートの取り方とか、そういった命や健康にかかわるインフラにも貢献してくれそうですね。私たちの生活や社会にコネクトして、より安心・安全な未来が訪れるというような感じがしました。
いずれは精神状態をセンシングしてメンタルケアが可能な世界も到来する?
松浦:「健康」についていえば、今スマートウォッチなどのウェアラブル端末で心拍数とか睡眠時間とか、生体情報を集めて健康状態を把握することが当たり前になりつつありますよね。個人的にはメンタルヘルスの情報も収集できたらもっといいのに、と思っています。「その日の気分」や「感情の変化」などを検知できれば、うつ病予防や自殺防止にも役に立つかもしれない。その実現のためには、“表情のセンシング”も必要かもしれません。「ヘルスケア用カメラ」みたいなものが、あらゆる場所に設置される世界が訪れるかも。
高山:たとえば、離れて暮らす家族の心身の健康を見守ることにも役立ちそうですね。やっぱり、新しい技術が普及する際には、「切実さ」がカギになると思います。家族や仲間の命とか、かけがえのないものが技術進化のコアになっていく気がします。
松浦:「切実さ」という点では、メタバースもすごく期待している分野です。たとえば車椅子生活を余儀なくされている人が、メタバース空間で現実に近いコミュニケーションがとれるようになれば、物理的な通勤が不要になって不自由なく仕事ができる。ダイバーシティの実現という点でも、メタバースはもっと発展してほしいと思いますね。
高山:たしかに、メタバースで出会った人たちと一緒に何か一つの映像作品や本を作ってみるのも面白そう。それで蓋を開けてみたら、アラブの女性だったり、ヨーロッパのベッドで寝たきりの人だったりする。そういう未来の想像は、すごく希望になります。
ここまでお二人のお話を伺って、“世界を拡張する力強さ”のようなものを感じました。“イメージング&センシング技術から、世界が広がる頼もしさ”というか。では続いて、「研究者としての情熱」をテーマにお話を聞かせてください。