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SF作家・高山羽根子と語る、新しい技術が人に与えるゆらぎ

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2024.08.02

Text
相澤 良晃
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井川 拓也

アンドロイド、人工知能、仮想空間、空飛ぶ車、宇宙旅行……かつてSFで描かれた夢の技術が、今つぎつぎと現実のものになりつつあります。技術者のなかには「SFに憧れて技術の道に進んだ」という方も少なくないのではないでしょうか。では反対に、半導体技術者の夢想を起点に、技術の魅力を知るきっかけの物語を生み出すことはできるのか。そんな狙いのもと、「記憶」や「孤独」をテーマにした小説作品で活躍されている高山羽根子(たかやま・はねこ)さんにご協力いただきました。
まず、高山さんとソニーセミコンダクタソリューションズ(以下、SSS)グループのセンサー開発者である松浦良(まつうら・りょう)と河野壮太(かわの・そうた)で座談会を実施。その後、高山さんに10年後の未来を舞台にした3つの作品を書きあげていただきました。本稿では、まず座談会の様子をお届けします。(小説はこちら

高山羽根子さんとソニーセミコンダクタソリューションズの松浦良さん、河野壮太さんによる座談会が行われ、新しいテクノロジーの可能性について議論されました。松浦さんはイメージセンサーの設計について語り、その進化が未来の技術をどう切り開くかについて探求しています。河野さんはAIと人間の共存を考察し、感覚の再現や未来予測型のアプリケーションの可能性を見据えています。高山さんは、技術の進化がもたらす倫理的なゆらぎを小説の中で扱い、人間の進化との関係性について考察しています。彼らの議論からは、技術の急速な進歩とそれに伴う人間の混乱や選択に焦点が当てられています。

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    SF並みの突き抜けた発想が技術開発に求められる時代

    高山:今日は技術者として活躍されているお二人にお話を伺えるということで楽しみにしてきました。まずは、それぞれどんなお仕事をされているのか教えていただけますか?

    松浦:私は、モバイル用イメージセンサーのアナログ回路の設計をしています。イメージセンサーは、センサー(画素)が感知した光量を電気信号に変換しますが、その時点では連続的な電気信号(アナログ信号)であり、イメージセンサ―特有のノイズも含むうえ、そのままではさまざまな画像処理を行うロジック回路で取り扱うことができません。そこでアナログ回路は、連続的な電気信号から各画素が感知した光量に相当する信号をノイズ除去した上で取り出し、アナログ信号からデジタル信号に変換してデジタル回路部分に受け渡す、という役割を担っています。

    本企画にはSSSグループ内で公募があって、高山先生と「イメージング&センシング技術の進化が切り開く未来世界」についてお話ししたくて、手を挙げました。やはりこれだけ技術の進歩が速い時代にあって、世界をあっと驚かすものを生み出すためには、SF小説並みの突き抜けた発想が必要だと思います。今日、先生からヒントをいただいて、今後の開発・設計に生かしたいと思って、イメージセンサーの設計・開発拠点の一つである福岡オフィスからやってきました。

    河野:私も九州在住です。ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングの本社である熊本テクノロジーセンターで、主にプロやハイアマチュア用のミラーレス一眼レフカメラに搭載されるイメージセンサーの量産開発に携わっています。松浦さんのようなチームが設計したものを製品にするパートが担当です。製品の試作から量産まで半導体のラインで造り込んでいるほか、製品の特性評価や品質信頼性の検証も行っています。

    今日参加したのは、自分の世界を広げたいと思ったからです。やはり自分の頭だけでは、画期的なものってなかなか生まれませんよね。普段からできるだけ多くの人とつながって、オープンイノベーションでモノづくりをしたいという思いがあります。近年は技術進化のスピードが早まっているので、私もSF小説のような突き抜けた発想が、時代の流れに合っていると感じているんです。

    あと、昔から小説が好きで、高山先生の『首里の馬』『カム・ギャザー・ラウンド・ピープル』も拝読しました。SF小説の一番の魅力は、読み手が文字情報から想像を膨らませて、過去や未来を自由に行き来できることだと思います。私たちのイメージセンサーが扱う「光」は、相対性理論で予測されているように、「位置」や「時間」と密接に関係しているので、私は近い将来、過去や未来といった時間の概念が変わるようなテクノロジーもきっと生み出せるのではないかと信じています。

    高山:それは、タイムマシンみたいなことでしょうか。

    河野:いえ、実際に過去や未来を行き来するのではなく、たとえば子どもの頃に記憶された「匂い」や「温かさ」を再現することで、そのシーンを蘇らせるようなイメージです。

    高山:たしかに子どもの頃に感じた「匂い」って、好きな食べ物とかとリンクしてすごく記憶に残っているし、感情との結びつきも強い感じがします。

    河野:はい、人間の五感をカギとして、過去の記憶を呼び起こせるのではないかと思います。その一方で、「今この選択をすれば、ほんの少し先の未来の自分の姿」が投影されるような未来予測型のAIアプリケーションもいずれ登場すると思います。AIが人間のよきパートナーとなって、一緒に人生を歩んでいく。私はそんな未来の世界を考えるのが純粋に好きで、こうした想像を業務に少しでも取り入れて、夢のある未来のテクノロジーを自分でつくりたいという思いで日々、研究開発に打ち込んでいます。

    松浦良さん(左)と河野壮太さん(右)
    松浦良さん(左)と河野壮太さん(右)

    新しいテクノロジーに対して人間はゆらいでしまうもの

    松浦:今日、本題に入る前にぜひ先生にお伺いしたいことがあります。テクノロジーというものは、使い方によって“救いの手”にもなるし、“悪魔の手”にもなりますよね。高山先生は物語を生み出す際、性悪説・性善説どちらの考えに基づいて「テクノロジー」を扱っているのか、教えていただけないでしょうか。

    高山:人間が性悪か、性善か、はあまり意識していません。ただやっぱり、何か新しい道具や技術が登場したとき、“倫理のゆらぎ”というものは、絶対に何らかの形で人間に付きまとうと思うんですね。たとえば、“AIに仕事を奪われるんじゃないか”という感情です。そうした利便性と倫理観のせめぎ合いのなかで、どう折り合いをつけていくか。それが重要ではないでしょうか。 私はそうした不安な感情の“ゆらぎ”自体が、人間が進化するうえで重要なポイントだと思っているので、そこからは目を離さないようにして作品をつくり続けていきます。不安に対してどう振る舞うか、何を選んでいくか。新たな技術の登場に惑いながら、ときには争ったり、いがみあったりしながら、少しずついい方向をめざしていくのが人間だと思います。

    高山羽根子さん
    高山羽根子さん

    松浦:なるほど。しかし、最近は世の中の変化がすごく早くて、“ゆらぎ”が落ち着く前に次から次へと新たなテクノロジーが出てきて、揺らぎっぱなしというか……。

    高山:たしかに、技術の進化の早さは、技術開発に携わっている方にとっては、すごく切実な問題ですよね。でも、どんなに技術の進化が早くても、おろおろしながらも人間はきっと何らかの形でいい答えを導き出すんだと思います。

    「テクノロジー=使える道具」がたくさんあるというのは「選択肢が多い」ということなので、人間にとってすごくいいことですよね。そして、その選択の「if」を提示するのが、作家としての自分の仕事だと思っています。未来に何が起こるかは誰にもわからないけれど、「こういう事態も考えられるし、こんな世界が訪れるかもしれない」と、物語を通じて可能性を提示する。直接的には未来とは関係ない話だったとしても、何かしらの形でテクノロジーや技術に向き合う人間の心の動きというものを作品に取り入れていければと思っています。

    では、次はお二人の関わっているイメージセンサーの未来について、お話を聞かせてください。

    02 イメージング&センシングは感情の技術になる?技術者が夢想する世界とは
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