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メタバースが溶かす他者との境界。人類は現実を超える幸福にたどり着けるか

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2024.09.25

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相澤 良晃
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平郡 政宏

前回、「メタバースの価値」について話す中、「メタバースの進化の先に人間は“バーチャルの海をふわふわ漂う存在”になる」と語ったクラスター代表取締役CEOの加藤直人(かとう・なおと)さん。

今回はメタバースがもたらす人間の価値観の変化から、そのために必要な技術の進化の方向性について、ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社(以下、SSS)の木本太陽(きもと・たいよう)さんと考えていきます。

クラスター代表取締役CEOの加藤直人さんは、メタバースの進化により、人間は「自分」と「他者」の境界が曖昧になり、バーチャル空間を漂う存在になると予想します。メタバースでは、外見や世界を瞬時に変えることが可能で、他者の影響を強く受けるため、自己の認識が変化します。究極的には、感覚と感情だけを享受する技術が求められ、現実の模倣を超えた新たな価値を提供することが目指されています。現段階では、3次元のメタバースが過渡期の技術として活用され、没入感を高めるためにディスプレイデバイスが重要視されています。

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    メタバースは“物理”を離れ感覚の世界に向かうまでの過渡期の技術

    木本 前回、メタバースにおいては、「自分」と「他者」の境界がすごく曖昧になり、究極的に “人はバーチャルの海を漂う存在になる”とおっしゃいましたが、詳しく教えてください。

    加藤 メタバースでは簡単に「自分」を変えられて、強烈な「個性」を発揮できる場ではあるけれど、その反面、強烈な個性を発揮する「他者」からの影響もすごく受けやすいわけです。

    当たり前のことを言っているだけに聞こえるかもしれませんが、現実世界では身体が個人と世界を隔てているので、自他の境界ってはっきりしていると思います。基本的に自分がコントロールできるものって自分の身体と、身にまとうもの、あとは自室くらいでしょうか。それも難しいケースも多々ありますし、それぞれ限界もありますが、コントロールできるものとできないものが明確で、その線引きが自他の認識の大きな割合を担っていると思います。

    メタバースでは一瞬で外見をガラッと変えたり、世界を広範囲で一瞬で変化させたりも可能なため、コントロール可能な範囲がかなり拡張されます。そしてそれは全プレイヤーが同様です。自分がいる世界が他者によって構成されたもので、しかもその世界が日々コロコロと変わる。そうした状況にさらされ続けると、「自分」と「他者」と「世界」の境界線がどんどん曖昧になります。

    加藤直人さん
    加藤直人さん

    木本 なるほど。そうなると確かに“ふわふわ”というニュアンスはわかる気がします。

    加藤 そして結局、人が求めているのは、“幸せな気持ち”です。人とのつながりから生まれる充足感、欲しいものが手に入ったときの満足感、あるいはライブを見たときの高揚感……こうしたプラスの感情に浸りたいのだけれど、現実世界ではお金や時間などさまざまな制約があってなかなか実現が難しいから、メタバースで疑似体験しようとしている。

    つまり、究極的には“幸せな気持ち”が手に入りさえすれば、3次元空間の映像で現実世界を模倣する必要はないわけです。たとえば、漫画の『攻殻機動隊』に電脳(バーチャル)セックスが登場しますが、それは映像や音があるわけではなく、ただ感覚だけを脳に直接送り込んで快楽を呼び起こすというものです。夢みたいな技術ですが、それほど遠くない未来にきっと実現されるはずです。

    ただ、今はそうした技術がまだ完成していないので、3次元空間で表現された世界の中にアバターとして存在して、現実世界の模倣をして感情に働きかけているということです。そういうわけで、現在のVRはまだ過渡期で、いずれ技術が進化すれば人は3次元空間からも解放されて、感覚と感情だけを享受できるようになるのではないかと思います。そうなれば、人は“なんとなく気持ちいい”と感じながら、“海のようなバーチャル空間を漂う存在になるかもしれない”と思うわけです。

    木本 感覚と感情だけの世界がメタバースの究極形なんですね。

    加藤 もしかしたらディストピアに聞こえるかもしれませんが、「サウナでととのう」みたいな体験を想像していただければいいものと思えるのではないでしょうか(笑)。

    ディスプレイデバイスは現実にない価値を映し出せるか

    加藤 しかし、感覚だけを享受できるVRが完成するのはまだまだ先の話で、しばらくは過渡期の技術である「3次元のメタバース」が利用されていくことでしょう。やはり、この時代の現実世界に生まれた人間が、物理に囲まれた生活経験を完全に取っ払うことは難しいですよね。だから現実世界をシミュレートするためセンシング技術や、それを映像として表現するためのディスプレイデバイスというのは、いまは絶対に必要です。いずれは味覚、嗅覚、触覚を含めて、メタバースで五感を感じるようになれば理想的だと思います。

    木本 ユーザーの没入感を高めるという意味で、現実世界をどのくらい再現できるようになれば、メタバースの技術として完成だと思いますか?

    加藤 完全に現実世界をシミュレートする必要はないと思っています。というよりも、現在のコンピュータアーキテクチャーでは、それは不可能ですよね。だから、“再現度の高低”はあまり重要ではなく、“再現度は低くても、大半の人に現実世界よりもメタバースを選んでもらえる状態”にもっていくことが大事かなと。

    VRの映像、あるいはコンテンツは、現実世界と比べると表現的にはかなりチープですよね。単純に0と1だけでは表現できないアナログの情報がすべてカットされているわけなので。いい意味でも悪い意味でもデフォルメされているのが、現在のメタバースの世界です。

    木本 なるほど。スペックではなく、実際にユーザーがどう感じるかに目を向けたほうがいいということですね。

    木本太陽さん
    木本太陽さん

    木本 SSSではそのメタバースの世界を実現する技術の一つとして、小型かつ高精細さを実現するOLEDマイクロディスプレイ(以下、M-OLED)を開発しています。今日、M-OLED を搭載したVR用ヘッドマウントディスプレイ(HMD)とAR用グラスをお持ちしたので、ぜひお試しください。

    AR用グラスを装着する加藤さん
    AR用グラスを装着する加藤さん

    加藤 ありがとうございます。では、さっそく。感想は次回ということで(笑)。

    03 研究開発の道標は体験価値の最大化。メタバースと半導体技術でSFを現実に
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