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研究開発の道標は体験価値の最大化。メタバースと半導体技術でSFを現実に

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2024.09.25

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相澤 良晃
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平郡 政宏

前回は「メタバースが普及した先の人間の価値観の変化」について、クラスター代表取締役CEOの加藤直人(かとう・なおと)さんに伺いました。今回はメタバースを実現する技術にフォーカスし、これからのVR/ARの活用法についてソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社(以下、SSS)の木本太陽(きもと・たいよう)さんとともに語り合います。

本対談では、VR/AR技術の進化とその活用法が議論されています。ソニーセミコンダクタソリューションズの木本氏は、M-OLEDを搭載したデバイスの高画質化や効率化を強調し、今後は小型化や省電力化が重要であると述べています。一方、クラスター代表の加藤氏は、VR/AR技術が製造業や経営の意思決定に貢献できると指摘し、技術が生活に溶け込むことが理想としています。両者は、SFの世界を実現するために技術者の挑戦が必要であり、半導体技術の重要性も強調しています。

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    「存在を感じさせない」ことがテクノロジーの正しい進化

    木本 前回の最後、OLEDマイクロディスプレイ(以下、M-OLED) を搭載したVR用ヘッドマウントディスプレイ(HMD)とAR用グラスのデモをご体験いただきましたが、いかがでしたでしょうか?

    加藤 さすがの高画質です。ここ10年ほどで、VR/AR用のディスプレイは大きく進化していますよね。解像度もリフレッシュレート*1も格段によくなっている印象で、ベーシックな性能に関しては、ほぼ限界の性能にまで達しているのではないでしょうか。まだ価格が少し高いのがネックですが、いずれは一般のユーザーが手に入れやすい価格帯にまでこなれてくると思いますし、そうなるとメタバースのUX向上にもつながるはずです。

    *1) ディスプレイが1秒間に何回映像の表示を切り替えられるかを示したもの。ディスプレイの仕様書に記載される数値で、単位は「Hz(ヘルツ)」です。

    VR用HMDに投影されている画像
    VR用HMDに投影されている画像。写真内のディスプレイの大きさは2cm四方程度

    木本 やはり高画質、高効率というのは「M-OLED」の重要な進化軸で、このVRゴーグルに使用しているのは、1.3型(対角33mm)で4K解像度を実現しています。最大フレームレートは90fpsと時間分解能も高いので、なめらかな映像表現ができるのも特長です。

    ただ、おっしゃられたように、解像度もフレームレートも人間が感知できる限界にかなり近づいてきている感があって、今後は表現能力以上に、小型軽量化、省電力化などユーザーの体験価値そのものを向上させる方向で開発に取り組んでいくことになると思います。

    一昔前は映像はテレビの前に一カ所に集まって見るということから始まり、今ではスマートフォンで個人が自由に見ることが主流になっていますが、将来的にはハンズフリーで気軽に映像体験を楽しめるような未来をディスプレイデバイス技術を通じて実現していきたいですね。

    左から、木本太陽さん、加藤直人さん
    左から、木本太陽さん、加藤直人さん

    加藤 テクノロジーの理想のあり方は、自分の生活に完全に溶け込んで、テクノロジーの存在を忘れてしまう状態ですよね。たとえば、いま僕はメガネをかけていますが、そのことを一切意識していません。もう完全に自分の一部になっている。そういうところにまで、VRや空間コンピューティングのデバイスは進化してほしいと思います。

    木本 ユーザーの体験価値を向上させるためにも、極力、ユーザーに“物理的な負荷”を感じさせないデバイスの開発に取り組んでいきたいですね。加えて、没入感や臨場感を高めるためには、ディスプレイ領域に留まらず、センシングなど周辺領域の技術にどんどん踏み込んで、トータルでVR/ARの体験価値を向上させていくことが必要です。リアルとバーチャルをさらに融合させ、まだ見ぬ感動を生み出せるような技術開発に貢献できるよう励んでいきたいと思います。

    SFの世界の実現をめざしたいし、めざしてほしい

    左から、加藤直人さん、木本太陽さん

    木本 ここまで、コンスーマー視点でのVR/AR技術のお話を伺ってきましたが、ビジネス分野で注目しているVR/ARの活用法はありますか?

    加藤 ベタかもしれませんが、1つは製造業での活用ですね。人手不足の解消という点では、人間が必要ない完全なFA(ファクトリーオートメーション)の実現が理想かもしれませんが、現実的にはまだ難しい。なので、限られた人材の訓練や、能力の向上にVR /ARの技術はものすごく価値があると思いますね。

    あとは、経営層の意思決定のサポートにもVR /ARは役立つと思います。たとえば、都市開発を行う際など、何十億、何百億円もの投資判断を迫られるケースが大企業の経営者にはありますよね。責任もあって大抵は保守的な判断をしがちですが、開発後の美しい街の光景や、そこで人々が楽しそうに過ごしている様子をVR/ARでシミュレートしてその目で見ることができれば、判断が変わってくるはずです。プロジェクトの判断ポイントをより正確に伝えるというVR/ARの活用は、世の中へのインパクトも大きくておもしろいと思います。

    木本 ビジネスの分野でも今後さらにVR/ARが普及してほしいですね。最後に、これからの未来を担う若手技術者には、どのようなことが求められると思いますか?

    加藤 僕は子どもの頃に親しんだSF小説やゲームの世界に憧れて、メタバースのサービスを提供する会社を立ち上げました。最近は「もう、やることがない。人類の技術は頭打ちだ」という声も聞こえてきますが、まだまだそんなことはないぞ、と言いたいですね。アンドロイドとの生活、惑星間移動、そんなワクワクするSFの世界を実現するために僕は技術者になったので、ぜひ皆さんもそういった夢や理想をもって、研究開発に打ちこんでいただきたいと思います。

    そして、現実世界がSFの世界に近づくにつれて、半導体の需要も急増していくと思われます。ですから、優秀な学生の皆さんは、ぜひ半導体の世界に飛び込んでください。メタバースの普及拡大にも、ディスプレイデバイス技術はもちろん、イメージング技術だったりセンシング技術を通じて貢献できるSSSは魅力的だと思います(笑)。

    木本 だいぶリップサービスしていただいてありがとうございます(笑)。今日うかがったことを参考にさせていただきながら、SFの世界を実現することをめざして、これからも研究開発を頑張っていきます。

    加藤 こちらこそ、ありがとうございました。一緒にメタバースを盛り上げていきましょう。

    左から、木本太陽さん、加藤直人さん

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