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好奇心に突き動かされ、ゆるミュージックプロジェクトが始動するまで

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2024.04.22

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武者 良太
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平郡 政宏

技術は人のクリエイティビティをどのようにサポートできるのでしょうか。そんなヒントが詰まっているのが「音楽弱者を、世界からなくす。」をテーマに活動するプロジェクト、世界ゆるミュージック協会です。そこで演奏されるゆる楽器に採用されているのが、IoT用ボードコンピュータSPRESENSE™。世界ゆるスポーツ協会 代表理事の澤田智洋(さわだ・ともひろ)さん、ゆるミュージックを支援するソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)の梶 望(かじ・のぞむ)さん、そしてゆる楽器の開発を技術面でサポートするソニーセミコンダクタソリューションズ(以下、SSS)の早川 知伸(はやかわ・とものぶ)さんの3名に、プロジェクトの背景や楽器開発の裏話を伺いました。

澤田智洋さんは、広告代理店で働いていたが、視覚障がいを持つ息子が生まれたことで仕事の意義を見失い、障がい者支援の活動に興味を持つようになった。その中で、「ゆるスポーツ」というプロジェクトを立ち上げ、障がい者や高齢者向けのスポーツイベントを開催してきた。さらに、音楽にも興味を持ち、音楽業界の知識がなかったため、梶望さんに相談し、一緒に「ゆるミュージック」プロジェクトを始める。このプロジェクトでは、楽器演奏に苦手意識を持つ人々に向けた楽器開発や無線化技術の研究を行い、新しい音楽体験の提供を目指している。

Contents

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    音楽弱者の選択肢を広げミスマッチを減らすゆるミュージック

    早川 そもそも、世界ゆるミュージック協会のプロジェクトは澤田さんと梶さんの出会いからはじまりますよね。澤田さんがもともと手掛けられていた、ゆるスポーツの話からあらためて教えていただいてよいでしょうか。

    澤田 もともと僕は広告代理店所属のコピーライターで、バリバリ仕事をしていたタイプなんですが、息子が視覚障がいを持って生まれたことをきっかけに、息子に見せることができない仕事をしていることの価値が分からなくなってしまったんです。そこで、約200人の障がいを持つ方にお話を伺い、「マイノリティは発明の母」になることがあり、障がいは人ではなく社会の側にあるという理解を得ました。

    その社会のギャップをなくすためにコピーライティングの視点を活かして、いろんなプロジェクトを起案してきました。そのひとつが2015年から取り組んでいる「ゆるスポーツ」です。

    スポーツが苦手な人や、後期高齢者の方や重度障がいのある方も多く参加されていて、いままでに作られたゆるスポーツの種類は120種類ほど。多くの方に「スポーツのとらえ方が変わった」と言っていただきました。

    澤田智洋さん
    澤田智洋さん

    澤田 選択肢を増やせばいろんなミスマッチを減らせることが分かって、次に考えたのがゆるミュージックです。僕自身もそうですが、身の回りに大人になってから楽器をやめた人が多いと気が付きました。調べたところ、日本の成人のうち約90%が、日常的に楽器演奏をしていないというデータもありました。スポーツと同じで音楽に対して苦手意識のある人も多いですよね。その人たちが楽器演奏を楽しめる選択肢を増やしたいと考えてみたものの、当初は音楽業界の知見がまったくなくて、梶さんに相談したんです。

     ちょうどその頃は、僕がSMEに転職したタイミングでした。ずっと音楽レーベルで仕事をしてきましたが、新しいことにチャレンジしたいと思っている矢先に相談を受けて、ちょうどSMEの内部で新規事業の公募があったので、「ゆるミュージック」を提案したんです。そうしたら興味を持ってくれた仲間が集まり、プロジェクト最初のイベントである「YURU MUSIC NIGHT&DAY」(2019年4月、Ginza Sony Park)開催につながりました。

    早川 プロジェクト開始よりも以前から、梶さんと澤田さんはつながりがあったんですね。

    澤田 はい。梶さんとの出会いは本当にたまたまで……。日本ブラインドサッカー協会のお仕事をしているときに、ラジオから流れてきたとあるアーティストの曲にすごく感動したんです。「ぜひこの方に日本代表のテーマソングを作ってもらいたい!」と思ってなんとかツテを辿って辿り着いた担当者が、前職時代の梶さんだったという。

     そのときの出会いがつながって、SMEは楽器の開発や音源の制作を担当するベンダーとしてプロジェクトに関わるようになり、今に至ります。

    演奏のハードルを下げる無線化を支援。個人の興味がのちの仕事に

    早川 その後、ゆるミュージックとSSSが出合ったきっかけも、個人同士のつながりでしたよね(笑)。

     そうそう。最初のうちはSMEのエンジニア担当が自前で楽器開発をしていたんですが、技術的な壁にぶつかったのがきっかけでした。ウルトラライトサックスという鼻歌をサックスの音に変換する楽器があって、当時はPCとつなげて音声を変換しないといけなかったんです。そのままだと楽器演奏のハードルが高くなるのでどうしても無線化したくて、SSSに個人的に相談しました。

    早川 当時の担当者と私も、はじめは個人的な好奇心から参加しましたね。鼻歌の周波数を解析して音を出すくらいなら有線じゃなくてもできるので、無線化して2019年のクリスマスイベントでお披露目しました。そこに私の娘が来てくれたんですが、すごく楽しんでくれて……。かなり手応えを感じたので、以後も技術面でのサポートを継続しようと思いました。

     ただ、その時点では正式なお仕事ではなくプライベートの活動として協力してくださったので、いろいろ苦労もかけてしまいましたよね。

    早川 一時はどうなることかと思いましたよね……(笑)。ただ、プロジェクトが大きくなるに連れて状況も変わっていって、ソニーグループとしてSPRESENSE™との連携にいたったり、それを応用した楽器製作キット「ゆるコア」の開発にもつながったりと結果的にはよかったです。

    澤田 ゴールを決めずに好奇心で続けてこられているのはこのプロジェクトの特徴ですよね。もちろん、会社公認の活動ですから内部ではKPIなども追っていると思うのですが、もし最初に「XX年で楽器を○個開発して、△円の売上をめざしましょう」とやっていたら、こんな広がりは生まれなかったんじゃないでしょうか。

    ゆる楽器を演奏する梶 望さん(左)、澤田智洋さん(中央)、早川 知伸さん(右)
    ゆる楽器を演奏する梶 望さん(左)、澤田智洋さん(中央)、早川 知伸さん(右)
    02 「誰もが演奏できる」という価値に形を与えるSPRESENSE™
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