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ものづくり企業の強さの源泉は組織のコアにこそ宿る
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2024.10.16
- Text
- :高橋 ミレイ
- Photo
- :平郡 政宏
ソニーセミコンダクタソリューションズ(以下、SSS)が通信量の増加を見越して開発に着手し、15年の歳月をかけて実用化に成功した熱アシスト磁気記録技術(以下、HAMR。Heat Assisted Magnetic Recordingの略)方式HDD用半導体レーザー。今後10年にわたり社会で求められていく技術を支えるために重要となるのが、未来を担う技術者の育成です。
今回は、国内外の製造業に関する情報を発信するYouTubeチャンネル「ものづくり太郎チャンネル」を運営するYouTuber・ものづくり太郎氏と、新型半導体レーザーのビジネス責任者であるSSSの谷口健博さんが、半導体人材を取り巻く現状とSSSで働くことの魅力について語りました。
SSSには、HAMR方式の半導体レーザーの開発において、装置の内製や他社と差別化できる技術力があります。また、SSSの社内体制やプロジェクト推進の柔軟性、半導体に対する熱量は、技術者にとって魅力的な環境といえます。ただ、現在、日本では化合物半導体を研究する学生が少ないため、半導体分野の人材確保に苦慮しています。そのため、SSSに限らず、半導体業界全体で認知度を向上させることが急務とされています。
ものづくりの醍醐味が味わえるレーザー事業の魅力を伝えたい
ものづくり太郎(以下、太郎) これまでHAMR向けの半導体レーザーの開発と、その優位性についてお話を伺ってきました。新しいデバイスの開発には、装置が重要な役割を果たすのではないでしょうか。
谷口 はい、肝となる装置は内製しています。装置とデバイス、両方を設計・開発できる人材が揃っているのはSSSの強みです。装置を外注する必要があったら、今の10倍以上の開発費がかかっていたでしょう。
太郎 それは大きなアドバンテージですね。自社のアセットから生まれたアドバンテージがあり、市場規模も拡大していく見通しだと。よいことだらけですが、新しい事業を拡大するための人材確保はたいへんですね。
谷口 おっしゃるとおり、人材確保は重要度の高い課題です。半導体には、シリコン系と化合物半導体があって、私たちが研究・開発に取り組んでいるのは化合物半導体です。
ただ、たとえば大学の研究にもトレンドがあって、今、日本の大学では「化合物半導体を研究している研究室」の存在自体が限られています。私たちが学生の頃とは様変わりしているその状況で、将来の技術者をどう育てていくのか。とても悩ましく、また、危機感を抱いています。
太郎 実は、僕も多くの採用関係のお話をいただくことが多く、仕事としても携わっています。日本でも世界でも需要があるにもかかわらず、ニッチな分野であるゆえにブランドイメージが確立されていない仕事の認知度をどう高めるのか。製造業、特に半導体分野では、学生に向けてその認知度を向上させたいという依頼がとても多いですね。
谷口 その点は、企業だけでなく、業界全体の課題でしょうね。どのように仕事の魅力を伝えていけばいいのか。たとえば、化合物半導体にまつわる技術は、シリコン系の世界に比べて過度に細分化されていません。全体像を把握しやすく、成果もダイレクトに跳ね返ってきやすいのが特徴です。そのため、“その仕事を自分がやっている”という感覚を得られやすいし、責任の範囲をどんどん広げていくこともできます。
さらに、ソニーでは、本人にやる気があれば組織の壁を越えてプロジェクトを推進することができます。今回の半導体レーザーのプロジェクトも同様で、組織の壁を超えてメンバーを集めて進めてきました。このやり方ができるのは、私たちの組織の一番いいところかもしれません。
太郎 しかも、装置も人も社内でインテグレーションできるわけですからね。その魅力を伝えていきたいですよね。
谷口 そうですね、それは仕組みというより社風です。「これをやりたいから、Aさんと仕事をしたいです」と手を挙げたことに対して、AさんとAさんの上司が共感したらプロジェクトに加わってもらうことができる。もちろん審議は必要ですが予算もつきます。
ソニーにはそういう社風があり、その環境だからこそ味わえる「ものづくり」の楽しさがあります。若手社員は、そのような環境での仕事を楽しんでいるように見えますよ。ただ、これから社会に出る学生や、転職市場にいる若い技術者に伝わっているのかは疑問です。
太郎 そこはほとんど伝わっていないんじゃないでしょうか。インパクトがある方法が必要でしょうね。たとえば、今後、新規ビジネスを成功させた谷口さんがヘリコプターで移動できるようにするっていうのはどうでしょう(笑)。SSSで頑張ればヘリコプター移動で仕事ができるなんて、夢もあるじゃないですか。
──確かにインパクトはありますね。海外の製造業だと、そこまではいかなくとも高待遇が得られると聞きます。
太郎 ヘリコプターは冗談としても、待遇や業務内容とか、わかりやすく「魅力」を伝えていくことは大事だと思います。SSSには訴求できることもたくさんありそうですし。世界で戦える土台があるとか、インテグレーションできる面白さとか、垂直統合型でものづくりの上流から下流まで全部やっているとか。キャリアにおける選択肢の広さは、ほかの半導体企業と差別化できる点ですよね。
今回の半導体レーザーも、研究から開発、実用化まで全てが社内で行われています。これは非常に魅力的で、その環境で働くことは、その人自身の人材価値向上にもつながります。そういったことがきちんと伝われば、多くの学生や若い技術者は大いに興味を持つはずです。今は、その情報に巡りあえていないんだと思います。
“内製”こそものづくり企業の強みにつながる
──今回の対談を通して、ものづくり太郎さんから見たSSSの印象はどうでしたか。
太郎 以前、別の仕事でソニーのCMOS(相補型金属酸化膜半導体)の不良率が他社と比べて低いことや、検査装置も独自のものを自社でつくっていると聞いたことがありました。そのため、「ソニーの半導体は凄い」という印象は持っていましたが、扱う半導体は、スマートフォン、デジタルカメラなどに使われるCMOSイメージセンサーのイメージが強かったんですね。
今回のお話を聞くまで、半導体レーザーでブレークスルーを起こしていることは知らなかったので非常に勉強になりました。とても面白いと思いましたし、やはり半導体に対する熱量は相当高いと感じました。
──半導体レーザーの特長や可能性をうかがう中で、どのあたりが面白いと感じられましたか?
太郎 デバイス開発で使う装置を内製している企業には“強さ”があります。ものづくり企業のコアコンピタンス(競合他社にはない、独自の強みや能力のこと)は、内製していることが重要ですよね。
そこが僕としてはとても面白かったし、また、ソニーならインテグレーションができるというところも非常に面白かったです。たとえば、Xperiaの実装機はパナソニックやFUJIなどの他社から購入しているわけです。そのソニーが、半導体レーザーの実装機を内製しているというのは興味深いですね。
谷口 そうなんですよ、内製なんです。そこが非常にこだわって取り組んできたところです。私たちがこだわって取り組んできたところをよくご理解いただけて光栄です。ありがとうございました。
太郎 こちらこそ、たいへん興味深いお話を聞けました。また、データセンター向けHDDの市場がこれだけグロースしていく可能性を聞いていてワクワクします。日本を代表するソニーがどう存在感を示していくのか。製造業を応援する立場としてとても楽しみです。今回はありがとうございました。
15年間の集大成!記憶容量倍増と環境負荷軽減をもたらす次世代HDD用半導体レーザー開発の舞台裏|特集|ソニーセミコンダクタソリューションズグループ (sony-semicon.com)