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Sony Semiconductor Solutions Corporation

発想が価値になる「半導体の民主化」で新しい文化がつくられる

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2024.01.09

Text
相澤 良晃
Photo
池村 隆司
Illust
高橋 潤

半導体業界のキーパーソンである東京大学大学院教授の黒田忠広先生と「積層型CMOSイメージセンサー」の生みの親であるソニーセミコンダクタソリューションズの梅林拓さんの対談。
今回は、「民主化」をキーワードに、半導体産業のこれからを語ります。現在、多くの専門家や予算を必要としている半導体開発の「期間と費用を1/10にする」というビジョンは、どんな未来をもたらすのでしょうか。

黒田教授と梅林氏は、半導体開発の高コストと高度な専門知識によるハードルを打破するため、「半導体の民主化」を提唱している。AIの民主化がChatGPTの登場によって実現し、同様のアプローチが半導体設計にも応用されることで、技術や知識に乏しい人々でもAIを活用して半導体を設計する可能性が示唆されている。これにより、開発コストや時間を大幅に削減し、若い世代にも開発への参加機会を提供することが期待されている。梅林氏は、イノベーションを促進するために実績を持った人々が若手をサポートし、多様性を尊重する環境を整えることの重要性を強調している。これらの議論は、技術の民主化がもたらす変化と、次世代の技術者に求められる姿勢に焦点を当てている。

Contents

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    技術の民主化が起こると爆発的にユーザーが増える

    ――前回は、イノベーションを生むために重要な「集団脳」の考え方について伺いました。今回は黒田教授が提唱されている「半導体の民主化」についてあらためて教えてください。

    黒田:今、半導体開発の格差が広がっています。複雑化、高度化されたチップをひとつ開発するのに、100人の専門家と100億円規模の予算が必要になってきていて、そんな投資を実現できるのは、GAFAクラスの超巨大企業だけです。日本ではそんな大規模な開発にチャレンジできる企業がどんどん少なくなっていますよね。

    梅林 たしかに、新しいチップひとつをつくるのにはものすごくお金がかかります。開発を担当するとなると、もうそれこそ人生をかける思いで……。

    黒田 言葉の重みが違いますね(笑)。でも、そういった巨大資本に恵まれた、特権的なプレーヤーだけが半導体チップを開発できる状況はつまらないですよね。それを変えようと、取り組んでいるのが「半導体の民主化」です。

    最近、AIの分野では民主化が起こりました。ChatGPTの登場です。AIの利便性、可能性は誰もが知るところですが、しかし実際にPythonでプログラミングしてAIを活用したことがある人は、ごくわずかですよね。でも、ChatGPTが話題になったとき、多くの人が遊んだでしょう? 何か話しかけたら、答えが返ってくるのが面白くて、皆使ってみた。ChatGPTの登場によって、AIを使う人が世界で何万倍、もしかしたら何十万倍にあっという間に増えた。まさに民主化が起こったわけです。

    梅林 なるほど。

    黒田 ChatGPTが出てきたことで、私は半導体の設計も変わるのではないかと直感しました。つまり、これまでは高度な教育を受けた専門家が、何人も集まって専用のツールを使って半導体を設計していたわけですが、これからは技術や専門知識はないけど、何かすばらしいアイデアを持った人が、ChatGPTに話しかけるようにしてチップがつくれるのではないかと。

    梅林 それは面白そうですね。

    黒田 「こっちのブロックをこう変更すれば、エネルギーの消費は良くなる?」とか聞けば、AIが一生懸命計算してくれて、「5%ぐらい良くなりますね」みたいな返事を返してくる。そんな会話を通じて半導体を設計できれば、民主化が一気に進むのではないかと期待してしまいますね。

    製造の段階ではもちろん専門家の力が必要ですが、AIの力を借りれば、100億円必要なところが10億円、数年かかっていることが数ヵ月で済むようになるかもしれない。そうなれば、若い人たちも「自分もチップをつくって、社会に実装しよう」という気にもなるじゃないですか。

    梅林 設計期間と費用が1/10になるというのは、すごく魅力的ですね。

    黒田 おそらく、時間の価値がどんどん見直され、設計から市場に投入するまでのTime to Marketがさらに重視されていくでしょう。そうなると、世の中が変わると思います。

    黒田忠広先生

    多様な人材の挑戦を後押ししてロールモデルを増やしたい

    ――企業に勤める一人の技術者として、梅林さんがこれから取り組んでみたいことがあれば教えてください。

    梅林 10年先を見据えて、小さなチャレンジを始めようとしている社員を後押ししたいですね。少し前に、企業でイノベーションがどうやって起きるかを調べてみたことがあって、ボトムアップで起きることが多いんですよね。反対・否定されながら、なんとかつくり上げて市場に出してみたら、ものすごく売れちゃったっていう例がけっこうある。

    黒田:そうそう(笑)

    梅林:だから、ある程度実績と経験を積んだ自分のような人間が、「志」を持って新しいことにチャレンジする若手を応援して、小規模でも始められる環境をつくっていくことが大切だと考えています。あと、やはり最後に大事になるのは、「覚悟」と「志」なので、次世代を担う人たちにそのことを伝えていくのも自分たちの役割だと思っています。

    黒田:ソニーさんは、なんかそういう自由闊達な雰囲気が感じられますよね。

    梅林 言い出しっぺにまずやらせてみる、という文化はありますね。陰から皆応援してくれるというか。目先の採算性や費用対効果だけで判断せず、もっと先の未来を見すえて、チャレンジをさせてくれる会社だと思います。

    黒田 あとは女性の技術者を増やすのも目標ですね。集団脳の観点からいっても、女性にどんどん半導体業界に飛び込んできてほしい。これは私たち教育側の責任でもありますが、やはりロールモデルとなる人や情報発信が少ないことが原因だと思っています。

    だからソニーさんで活躍している女性たちから半導体業界の魅力を発信する声が増えれば、「自分もああなりたい」と思う若い人が増えるはずです。ぜひ女性に限らず、多様なバックボーンを持つ人材が半導体の世界で活躍できるように応援してほしいですね。

    ――もし、ご自身がこれから半導体業界に飛び込む25歳だったら、どのような考えで進路を選択されますか? また、未来を担う技術者に向けてメッセージがあればお願いします。

    黒田 今は昔と違って、「終身雇用」「年功序列」が絶対ではなく、人材の流動化が進んでいますよね。だからもし、私が25歳だったら、いかに多くの経験を得て成長できるか、自分がどうキャリアアップしていけるかという視点で会社を選びます。よりおもしろい時代になってきたと思うので、学生を含め、若い人たちには、困難でも価値のある仕事にどんどん挑戦していってほしいです。

    梅林 私も、そう思います。さらに「10年先を見据えて挑戦しよう」と伝えたいですね。でも、パッと思いつきで挑戦をしてしまうと、とんでもない目に遭うこともあるんですよ。

    もっと言えば、「困っている人を助けるために挑戦しよう」でしょうか。ちょっと自己犠牲的に響くかもしれないですが、自分のためだけの志はなかなか続かないので。

    その上で、挑戦するなら、「市場の辺境で小さく始められるもの、そしてうまくいったら、いろいろな要域に波及できそうなプラットフォームになりそうなもの」が望ましいと思います。その挑戦が実を結べば、一気に波及して世界を変えるようなものが生まれるでしょう。

    梅林拓さん

    黒田 今から70年前、トランジスタの開発で日本の半導体産業の先陣を切ったソニーさんなら、これからもすばらしいアイデアで、世の中を驚かせるサービスや新しい文化をつくってくれると思います。めちゃめちゃ期待しています。

    梅林 ありがとうございます。頑張ります。

    黒田 こちらこそ、本日はありがとうございました。

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