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2027年がカギ? ラピダスを機に変わる、北の大地の経済圏

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2026.04.28

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相澤良晃
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平郡政宏

日本の新たな半導体集積地としての期待が高まる北海道。Rapidus株式会社(以下、ラピダス)の2027年の量産開始を契機として、多くの半導体関連企業の進出が期待されますが、影響はそれだけにとどまりません。産官学が連携し、半導体産業や豊富な再生エネルギーを推進力として、シリコンバレーのようにあらゆる産業をDXする「北海道バレー構想」の実現に向けた取り組みが進んでいます。半導体産業の盛り上がりは、人材流出や産業低迷に悩んできた北海道の課題を解決するきっかけになるのか。前回に引き続き、ジャーナリストで北海道大学特任教授の太田泰彦(おおた・やすひこ)先生にお話をうかがいました。

2027年、北海道ではラピダス量産開始を始めとして、半導体関連企業やエネルギー事業、データセンター開発が連動し、大きな産業変革が見込まれています。半導体を核に全産業のDXを進める「北海道バレー構想」は、農業や漁業など一次産業にも波及し、地域全体の生産性向上を目指すものです。人材流出の抑制やエンジニアの社会的地位向上にも寄与すると期待される一方、急増する需要に対する人材不足が課題です。産学官連携による育成体制の整備が重要な鍵を握ります。

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    北海道全域をDXする「バレー構想」

    ――ラピダスの誕生によって、半導体装置や素材メーカーの北海道進出も増えているのでしょうか。

    太田:量産開始予定が2027年ですから、現時点では半導体のサプライヤーが急増しているわけではありません。今はまさに「お祭りの前夜」で、これから始まることを皆がわくわく待っているという状況です。実際に量産が始まれば、何十~何百社もの素材・部品・装置メーカー、エンジニアリング企業や物流企業が北海道に集まってくると予想されます。

    エネルギー関連の大型プロジェクトも2027年を目標に道内のあちこちで進められていて、たとえば石狩では大規模な洋上風力発電の開発計画が動いていますし、北海道電力がめざす原子力発電所(泊発電所)の再稼働もこの年です。苫小牧ではCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)(※)の国内初の事業化をめざして試掘が行われています。道内各地でAIデータセンターの建設計画も持ち上がっていて、これらが2027年に惑星直列のように重なります。

    北海道ではラピダス進出を機に、半導体産業や再生可能エネルギーを推進力として北海道全体のデジタルインフラを成長させ、あらゆる産業のDXを推進しようという「北海道バレー構想」が進められています。人口減少や高齢化が急速に進む北海道で、人間と自然が調和した持続可能な社会を実現する。そのために、デジタル技術をフル活用していこうという壮大なものです。ラピダスやエネルギー関連事業などが順調に進めば、この構想も絵空事ではなくなるでしょう。

    太田泰彦先生

    ――北海道バレー構想は北海道経済全体を発展させるという目標を掲げていますね。

    太田:半導体産業の恩恵について、「石狩や札幌、苫小牧周辺だけの話ではないか」という声もあるようです。確かに半導体のサプライチェーン自体は一部のエリアにとどまります。しかし、実際に北海道にデジタル技術の集積地ができれば、道内のあらゆる産業が無関係ではなくなるはずです。

    たとえば釧路で、魚群レーダーの情報や潮流など漁業に関連する大量のデータを活用し、漁業の生産性を引き上げるAIを開発する。そのAIを動かすためにどのような半導体が必要かを構想し、札幌で設計し、千歳で製造する。そういう意味では、北海道全域の第一次産業を含むあらゆるリソースが生きてくるんです。

    明治初期に札幌農学校で「大志を抱け」と語ったクラーク博士は、米国のマサチューセッツから新農法を持ち込み、北海道の農業を塗り替えました。同様に、水産業・農業も気候観測も、移動手段やインフラも、半導体によって劇的に進化する可能性を秘めているのです。北海道は、先端半導体の社会実装を目指す広大な実験場でもあります。

    ※CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)=工場などが排出する二酸化炭素を回収し地中に貯留する技術。カーボンニュートラル実現の手段の一つとして注目されている

    半導体産業で若者が変わり、北海道が変わる

    ――北海道には長年、人材の道外流出という問題がありましたが、それも半導体産業が盛り上がることで変わっていくのでしょうか。

    太田:北大も昔から、学生の6割は道外出身者ですが、大部分が就職のタイミングで再び道外に出て行ってしまいます。理由はシンプルで、東京や大阪と比べて魅力的な仕事の選択肢が少ないからです。私もそうでしたが、わざわざ道外からやってくる学生は、新天地で何か新しいことに挑戦したい人間。北海道におもしろい仕事があれば、残りたい人が多いのではないでしょうか。人材流出防止という点でも、半導体産業への期待は大きいんです。

    ちなみに私は、ラピダスの「人」のエネルギーも、北海道を変える一つの力だと思っています。ラピダスには「もう一度日本の半導体産業を復活させる」という気概のあるエンジニアたちが集まっている。私の講義で、ラピダス専務の折井靖光さんという伝説のエンジニアに登壇していただいたんですが、ものすごい熱量で語るんですよ。「私たちはやる。誰にも負けない。圧倒的な技術力を握る」と。

    若い人には暑苦しいかと思ったんですが、話を聞いた学生が感動して目に涙を浮かべるんです。昭和のエネルギーが、ラピダスという変速機を媒介として令和の若い世代にしっかり受け継がれつつあります。ラピダスがもたらした目に見えない大きな成果は、この「エネルギーの継承」ではないでしょうか。

    国の土台を支えるのは科学技術であり、その主役はエンジニアであるはずですが、日本はこれまで、エンジニアに対して冷たい国だったように思います。高度な知的労働でありながら、給料も金融やコンサル業などに比べて低かったのですが、ラピダスはエンジニアの社会的地位を変えつつある。

    エンジニアが社会の最前線に立って新たな価値を生み出し、それを見た若い人たちが憧れを抱く。半導体産業が来たことによって若者が変わり、大学が変わり、北海道が変わる……それが理想だと私は思っています。

    太田泰彦先生

    ――経済面での効果については、どのように見ていますか。

    太田:現時点でも半導体関連を中心に世界中からエンジニアが集まってきており、その影響で地価や不動産価格も急激に上昇しています。さらに海外からやってくるファミリー層向けに、外国人向け住宅やインターナショナルスクール、大型モールをつくろうという話も持ち上がっています。

    北海道新産業創造機構(ANIC)という団体は、ラピダス進出にともなう道内の経済波及効果を「2036年度までの累計で最大18兆8000億円」と試算しています。またラピダス操業後は「北海道の総生産(GDP)を2036年に約26.1兆円まで押し上げる」と見込んでいます。これは2024年(20.9兆円、見込み)の実に1.25倍です。

    ただ、これはあくまで期待としての予測であって、計画ではありません。まずはラピダスの量産がうまくいくことが大前提になります。そして事業が軌道に乗れば、次に課題となるのは「人」です。半導体人材が道内で大幅に不足することが見込まれるため、北大がハブとなって北海道内の大学・高専などと連携し、人材育成のための仕組みづくりを現在急ピッチで進めています。

    太田泰彦先生

    ――北大は、道内に半導体人材を供給する機関として期待されているわけですね。

    太田:北大はラピダスの北海道進出を機に「半導体拠点形成推進本部」を設置し、半導体研究と人材育成に力を入れてきました。この組織を改組し、2025年4月に北大の半導体教育の中心的な役割を担う組織として設立したのが「半導体フロンティア教育研究機構」(IFERS/アイファース)で、私もその一員です。

    半導体は単なる電子部品ではなく、国際政治を左右する戦略物資でもあります。半導体の使い方を発想する知恵も問われます。電子工学、情報科学に限らず、経済、政治、地域開発、さらには哲学までを含め、あらゆる学術分野に関係する幅広いテーマなのです。

    こうした認識を、文系を含む多くの学生に広く共有してもらい、俯瞰力を高めてほしい。IFERSでは、そのためのカリキュラムの設計を進めています。現時点の所属メンバーは、直接的に半導体技術に関わる教員が中心ですが、今後は人文社会科学系を含めて多様な分野の研究者も参画することになるでしょう。

    ――次回は北大における半導体人材教育について、詳しくうかがいたいと思います。

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