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次世代へ感動をつなぐ。平井一夫が語るキャリアのあり方と半導体の未来
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2026.05.07
- Text
- :笹林司
- Photo
- :平郡政宏

2012年から2018年にかけて、ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社。以下、ソニー)社長 兼 CEOを務め、半導体事業を分社化してソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社(以下、SSS)設立の経営判断をくだした平井一夫さん。第1回では経営トップとしての「決断」の軸を、第2回では若手時代の経験から導き出された「成長のマインドセット」についてうかがいました。
締めくくりとなる第3回は、若手が5年後、10年後を見据えて今磨いておくべき「具体的な武器」について深掘りします。また、平井さんが現在取り組んでいる「体験格差」解消への新たな挑戦や、半導体業界への期待についてもうかがいました。
平井一夫氏は、リーダーのやりがいは、組織の方向性を定め、事業を良くし、部下の人生にも良い影響を与えられる点にあると語ります。若手が将来のキャリアを築くには、自分の能力をどこで生かせば最大の価値を生めるかを見極め、強みを磨くことが重要だと強調。自身も英語力と法務知識を掛け合わせ、希少な人材として機会をつかんだ経験を紹介し、語学力や財務・会計知識の習得を勧めています。現在は、経済格差によって子どもたちの体験機会が失われる「体験格差」の解消に向け、「プロジェクト希望」を推進。さらに半導体は、映像・医療・エンタメなど社会に感動を届ける基盤であり、未来を担う技術者には革新的な開発で次代を切り拓いてほしいと期待を寄せました。
どう自分の能力を活かせば、最大の価値を創出できるか

──最近は、管理職やリーダーになることを望まない若手も増えていますが、平井さんが考える、リーダーのやりがいをお聞かせください。
平井:リーダーという役割の醍醐味は、メンバーと意見を交わし協力しながら、最終的な組織やチームの方向性を決め、ビジネスをよりよくする、さらには部下の人生をよりよい方向へ導くということ。組織が大きくなればなるほど社会に対するインパクトが生まれる、非常にやりがいのある仕事です。
では、なぜ若手がリーダーになりたがらないのか。それは、周囲にロールモデルとなるリーダーが少ないからではないでしょうか。肩書きだけで仕事をし、まわりをイエスマンで固め、決断も上層部の顔色ばかり窺って方針がブレてしまう。そんな“ダメなリーダー”を見たら、「あんなふうになりたくないな」と思ってしまうのも無理はないでしょう。逆に一面でも“よいリーダー”に出会うことができたなら、その振る舞いを日々観察し、学べるところは意識的に学んで教材にしてみましょう。
もし、この記事読んでいる皆さんがリーダーになった際は、「◯◯さんのようになりたい」と若手に憧れられるような模範を示してもらえたらと思います。
──次世代を担う若手が、5年後、10年後とよりよいキャリアを築いていくために、意識した方がよいことはありますか。
平井:「自身の能力をどこでどう生かせば、会社や自身のキャリアにとって最大の価値を生み出せるか」を考えて準備しておくことです。具体的には業界や組織を客観的に見極め、自分の能力や得意分野を棚卸ししておく。
たとえば私の場合、洋楽のプロモーションに携わる中で、「海外アーティストと複雑な契約交渉や権利関係の調整を行える海外法務のプロ」がいないことに気づき、この分野の能力を磨けば、より価値を発揮できると考えました。海外経験が長く、英語は得意でしたので、それと「法務の知識」を掛け合わせれば、会社にとって価値が高く欠かせない存在になる。そこで法務の知識を必死に磨き、その領域の仕事を任されるよう準備しました。
組織なので必ず希望する分野・業務に就けるわけではないですが、会社側も人材をできるだけ適材適所に配置したいと考えますから、チャンスは巡ってきます。私自身、会社から「海外法務をやってくれ」と言われたときは、「来た! 任せてくれ」と思いました(笑)。
そうした意味で若手に広くアドバイスするなら、英語あるいは中国語などの外国語スキルは準備しておいた方がいい。これからは国際市場の中で仕事をする機会が格段に増えます。特に英語は通訳任せにするのではなく、自ら直接現地に行って交渉できるぐらいのレベルをめざしてほしいですね。
また、これは私自身の反省でもあるのですが、財務や会計に関する知識を身につけることも重要です。職種に関係なく、バランスシート(貸借対照表)やPL(損益計算書)など、ビジネスの共通言語である数字を理解できるベースの知識を持っておく。リーダーになれば必ず数字がついてくるので、早めに勉強しておくことを勧めたいですね。
次世代へ「感動」をつなげる、新たな挑戦
──平井さんは常に、未来に価値を創出することを見据えて挑戦されてきたのですね。ソニー経営の第一線から退かれた現在は、どのような取り組みをされているのでしょうか。
平井:ソニーCEO退任後、なんらかの形で社会に恩返しをしたいと考えていたときに出会ったのが、経済的な理由から生じる「体験格差」という社会問題でした。日本では子どもの相対的貧困が深刻で、コンサートを楽しむ、スポーツを観戦する、テーマパークに行く、旅行に行くなど、心が揺さぶられる体験を得る機会に格差が広がっています。それは、ものの考え方や視野の差につながり、やがて教育格差や将来の選択肢の格差、さらには貧困の連鎖へとつながってしまいます。
ソニーで「感動」を届けたように、子どもたちが人生を歩む力となる感動体験を届け、この格差を無くしたい。その思いから立ち上げたのが「プロジェクト希望(Project KIBO)」です。
映画館や遊園地に保護者や友人と一緒に行き、「共通の体験や思い出をつくる」感動体験。ゲームやドラマの制作現場を見学したり、ソニー本社で社員から話を聞いたりし、「将来につながる興味関心に気付く」感動体験。日常と離れた土地を訪問し、異文化交流などで「世界観を変える」感動体験。プロジェクトでは、この3つを軸に感動体験を提供しています。
「プロジェクト希望」を通じて感動体験を得た子どもが大人になり、「あのときのゲーム制作現場訪問をきっかけに、ゲームクリエイターになりました」と言ってくれたら、こんなにうれしいことはありません。
半導体は世界に「感動」を届ける基盤。未来を担うエンジニアへ

──最後に、これからの半導体業界に期待すること、同業界をめざす学生や若手技術者へのメッセージをお聞かせください。
平井:私がソニーCEOを務めていた頃、半導体事業で働くエンジニアに持っていた印象は、「技術に対して熱いプロフェッショナル集団」。自分たちが開発している最先端の技術に対する、揺るぎない自信とひたむきさを感じていました。私もよく現場に足を運び、エンジニアの方からさまざまな技術の話を聞かせてもらったものです。
現代社会を支える半導体デバイスは、もはや生活の一部。ありとあらゆる場面で使われ、それ無しでは生活が成り立たないといっても過言ではありません。エンタテインメントは作品を通じて感動を伝えますが、その多くの映像はSSSのイメージセンサーが搭載されたカメラによって撮影されています。また、医療機器などに活用され、命を救うことにも貢献している。半導体業界をめざす学生には、半導体もまた、感動体験を支える重要な基盤であることを知ってほしい。
そして、SSSの技術者に期待しているのは、人びとに感動を提供するために必要な、革新的な製品開発や技術開発を進めること。「自分たちの半導体技術が未来のエンタテインメントを創る」という主体的なマインドセットで、これからの未来をリードしてほしいと思います。
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