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広大なフィールドと多様な人材を強みに、北海道大学が挑む半導体人材育成

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2026.04.28

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相澤良晃
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平郡政宏

北海道にRapidus株式会社(以下、ラピダス)を起点とした半導体集積地が生まれつつある中、半導体人材育成の要として急ピッチで環境整備を進める北海道大学。同大がめざすのは、広大な森林や農場、海洋といった「現場」から、半導体の新たな使い道=ユースケースを構想できるクリエイティブな人材の育成です。北大に2025年4月に設立された「半導体フロンティア教育研究機構(IFERS)」の一員でもあり、半導体×リベラルアーツ教育に携わる太田泰彦(おおた・やすひこ)先生に、同大における半導体教育と、これからの日本に必要な「半導体人材」について聞きました。

北海道大学は、半導体の設計や製造だけでなく、その用途を構想できる人材の育成を重視しています。農場や森林、海洋、医療といった多様な研究フィールドを活用し、現場発のユースケース創出を促す点が特徴です。文理融合の教育や国際的な人材交流を通じて、分野横断的な発想力を養い、新たなイノベーション創出を目指しています。半導体を通して社会や世界を俯瞰できる視点を持つ人材の育成が、日本の技術競争力を高める鍵になると示されています。

Contents

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    森林も海洋も農場も病院も、半導体開発のアイデアの宝庫

    雪のポプラ並木を歩く太田泰彦先生

    ――北海道に半導体集積地が生まれつつある中、北海道大学は不足する「半導体人材」育成の役割を期待されているのでしょうか。

    太田:北大は広い意味での「半導体人材」を育てていく場所になります。半導体人材は全国的に不足しているといわれていますが、特に必要とされているのは設計人材です。物理的な集積回路の図面を描く設計者、その論理設計をする技術者、仕様を策定するチーム、さらに重要なのは、半導体を何に使うかというユースケースを開拓する企画者たちですね。

    かつてスティーブ・ジョブズがiPhoneという画期的なプロダクトを夢想し、それを実現するために必要な半導体を作らせました。半導体があったからiPhoneができたのではなく、iPhoneというビジョンがあったから半導体が作られた。私はこうした「何に使うか」を発想できる人も、広義の半導体人材だと考えています。

    潜在ニーズに目を凝らし、半導体をどう生かすか知恵を絞り、それを製造につなげられるエンジニアこそ、今、日本に最も必要なのではないでしょうか。私が取り組んでいるのは、まさにそうした人材を輩出するための土台づくりで、文理を越えて学生の視野を広げてもらうために試行錯誤しています。

    北海道大学・量子集積エレクトロニクス研究センター内の研究施設

    ――半導体に関する教育・研究拠点としての北大の強みはなんでしょうか。

    太田:半導体を何に使うか考えるとき、私は「現場から考える」ことが大事だと思っています。その点、多様な研究のフィールドを持つ北大はうってつけの場所です。キャンパス内に大きな試験農場があり、牛や羊やトラクターが走り回っていますし、全国各地に広大な研究牧場や演習林があります。すべて合わせると、北大の合計面積は日本の国土の約0.2%を占めています。

    海洋調査船を所有していると聞くと、驚く人も多いでしょう。動物病院や北極圏を観測する研究センター、北海道最大の病院など、多様な現場に根ざした研究環境が整っており、現場と研究を地続きで結びつける力が北大の特長です。

    たとえば農業分野では、ブドウの収穫の自動化やトラクターの自律走行といった研究が進められています。こうした現場でのエッジ処理に最適なチップが生まれれば世界中で需要が見込めるでしょうし、農業そのものに革命が起きるはずです。森林も海洋も農場も病院も、実は半導体開発のアイデアの宝庫なんです。

    IFERS(半導体フロンティア教育研究機構)も、狙いの一つはユースケース開拓です。北大にはもともと世界に名だたる半導体関連の研究者が数多く在籍していますが、そこに異なるフィールドの先生方の力も合わせたら、次世代の画期的な半導体が生まれるのではないか。そのために多様な分野の先生に参加いただきたいと考えています。

    ――あらゆる分野の研究者が半導体に関わるのですね。

    太田:北大のもう一つの特徴は「人が集まる」ことです。海外、特にアジアでは北海道は大人気で、「HOKKAIDO」としてブランド化しています。この発信力・求心力は北大にも共通していて、世界中から優秀な人材が集まってくる。さらに北大には文理融合型のユニークな研究所がいくつもあり、たとえば「人間知×脳×AI研究教育センター」では、神経医学と電子工学、情報科学、哲学、心理学などの先生が共同で研究しています。この分野横断的な研究スタイルも北大ならではの強みです。

    太田泰彦先生

    ――北大内に、半導体製造の主要な工程を体験できる「半導体プロトタイピングラボ」をつくる計画も進んでいると聞いています。

    太田:このラボも共用施設として、学内外に開かれた場所になります。「半導体を作ってみたい」という人たちが、分野や立場を越えて自由に集い、挑戦できる施設です。

    世界を見ても、こうした開かれた研究拠点がイノベーションを生み出す例は数多くあります。たとえば、ベルギーにある国際研究機関のimecは、半導体露光装置で世界シェアの約9割を占めるオランダのASMLと二人三脚で、画期的なイノベーションを起こしています。

    それと同様に、北大という開かれた研究機関と、ラピダスという最先端の企業との組み合わせが、“北海道版シリコンバレー”の中核になるでしょう。世界中の研究者や企業が知恵を持ち寄り、混ざり合う「知の広場」としての役割を北大が担っていく。その結果として北海道が掲げる「バレー構想」に貢献していくのが理想ですね。

    「The World in a Chip」半導体から世界に思いを馳せてほしい

    ――北大の教員として、太田先生が今後取り組んでいきたいことは何でしょうか。

    太田:日本はこれまで、技術そのものは優れていながら、それを画期的なモノにつなげることがあまり得意ではありませんでした。それがこの20年、日本のものづくりが停滞している原因の一つではないでしょうか。私はそこを変えたいと思っています。半導体に限りませんが、広い視野を持って技術や世界を俯瞰できる人材が増えれば、日本にもいずれスティーブ・ジョブズのような人材が出てくるはずです。

    私は、半導体は単なる電子技術ではないと思っています。半導体技術を高めた先に、どのように豊かで幸せな社会が実現するか考えたとき、「幸せとは何か」「生きることや働くことにはどんな意味があるのか」……そうした本質的な問いが、この小さなチップの中に詰まっているんです。そんな感覚を学生にも持ってもらいたくて、「The World in a Chip」というタイトルで講義をしています。

    私は理系と文系の間を行き来し、実社会のフィールドを駆け回った新聞記者として、若い世代に語りたい体験があります。そもそも理系、文系という二分法はおかしくありませんか? 型にはまらず、技術がつくり出す未来や世界に思いを馳せるような感覚を、学生に伝えていきたいと思います。

    太田泰彦先生

    ――半導体産業に関わる企業に求めることはありますか。

    太田:企業側から、どういう人材が欲しいのかを積極的に発信してほしいですね。漠然と「半導体人材」と言っても、人によって解釈が違います。文系の学生だって、さまざまな側面から半導体に関わる道がありますよね。具体的に提示してもらえれば、大学側もそれに応じた育成ができます。

    ――最後に、学生の皆さんへメッセージをお願いします。

    太田:あらゆる学生に伝えたいのは、「あなたの勉強や研究していることは、必ずどこかで半導体につながる」、そして「先端技術を通して眺めると、世界は意外な姿を現す」ということです。

    私は工学大学院で講義を開いていますが、法科大学院から履修してきた学生もいます。その学生は、米中の対立が深まる中で半導体技術の分断が起き、知的財産権が非常に重要な課題になっていると気づいたそうです。法律の世界も半導体と結びつけることで見え方が変わる。どんな分野の勉強も、半導体という切り口で見れば新しい視界が開ける。それを多くの学生に知ってほしいと思います。

    半導体を専門としている学生に対しては、スピード感を大事にしてほしいですね。半導体の技術開発競争はものすごいスピードで繰り広げられています。わずか半年の間に研究のトレンドがガラッと変わることも珍しくありません。そのスピードについていけるよう、発想をポンポンと柔軟に切り替えて、一足飛びに進んでいく感覚を大切にしてほしいと思います。研究室に閉じこもっていては、すぐに最先端から置いてかれてしまう世界です。失敗を恐れず、勇気を持って新しい領域へ挑戦してほしいですね。

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