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成長に必要なマインドセットとは。信頼されるリーダーになるために
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2026.05.07
- Text
- :笹林司
- Photo
- :平郡政宏

2012年から2018年にかけて、ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社。以下、ソニー)社長 兼 CEOを務め、半導体事業を分社化してソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社(以下、SSS)設立の経営判断をくだした平井一夫さん。前回は、経営トップとして難しい舵取りを迫られる中で進めたソニー再建の「決断」の裏側や、それを支えた考え方についてうかがいました。
第2回は、平井さんが若手時代にどんな経験を積んできたのか、リーダーとして成長するために必要なマインドセットについて掘り下げていきます。
平井一夫氏は若手時代、音楽業界での交渉業務を通じ、困難な状況でも諦めずやり抜く姿勢が信頼につながると学びました。その後、異業種であるゲーム事業へ抜擢された際も、「人事はくじ引きではなく、必ず理由がある」と前向きに受け止めたと語ります。リーダーとして成長するには、自分一人で全てを理解していると思わず、現場の専門家やCFOなど周囲の力を借りながら信頼関係を築くことが重要だと説きました。また、実績だけで驕らず、リーダーになった瞬間から主役は自分ではなくメンバーだと意識を切り替えるべきだと指摘。EQ(感情理解力)を高めるには、対面での雑談や日常的な交流など、アナログな人間関係づくりが有効だと語っています。
人事は「くじ引き」ではない。自らが選ばれた理由を信じる

──平井さんは、株式会社CBS・ソニー(現 株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント。以下、CBS・ソニー)からキャリアをスタートさせました。当時はどんな姿勢で仕事に向き合われていたのでしょうか。
平井:大好きな音楽に携わりたくてCBS・ソニーに入社し、洋楽アーティストのプロモーションや海外法務・契約交渉などを担当していました。現場はタフな交渉の連続で、代理人から到底受け入れられない一方的な条件を突きつけられることも多々ありました。ただ、すぐに諦めず可能性を探り、交渉成立に向けて泥臭く動くことを常に意識していました。結果がどうであれ、前向きに取り組むことが、「平井は困難な状況でも逃げずに頑張ってくれる」という周囲からの信頼につながることを感じていたからです。
理不尽だと思うことがあっても、任された仕事は諦めずに完遂をめざす。そうした姿勢は、必ず誰かが見てくれています。
── 海外赴任などを経て、1995年にはSony Computer Entertainment America(以下、SCEA)へ。音楽から畑違いのゲーム事業への異動でしたが、その後にはEVP(エグゼクティブ・バイス・プレジデント)兼COOに就任するという、さらなる大抜擢がありました。戸惑いはありませんでしたか。
平井:もちろん「なぜ自分が」と驚きましたが、任命してくださったのは、心の底から尊敬しているCBS・ソニー時代の上司である丸山茂雄さん。「何かしらの意図や理由があって指名されたのだ」と受け止め、私の中に断るという選択肢はありませんでした。
これは特に若手の方にお伝えしたいのですが、会社における人事や任命は決して「くじ引き」ではなく、経営陣や上司は確たる理由があって任命しています。「自信がない」「なんで自分が」と思うこともあるかもしれませんが、ふてくされず「必ず理由がある」ととらえて前向きに取り組んでほしいのです。そのマインドセットの違いで、仕事から学び取れることに大きな差が生まれます。任命してくれた先輩や上司をリスペクトしているなら、なおさら、その期待に応える努力をしてほしいと思います。
── とはいえ、当時35歳という若さで、畑違いの分野で副社長を任されるのは、プレッシャーも大きかったと思います。どのように経営者として成長していったのでしょうか。
平井:ゲーム業界のプロであるSCEAの社員たちからすれば、「なんで日本から来たレコード会社の人間が次の社長なんだ」と思うのは当然ですよね。ですから、トップに立ってまずやるべきことは、現地の社員やマネジメントチームと強固な信頼関係をつくることでした。
たとえば、私は財務や会計といった数字まわりに決して強くはありませんでした。経営の舵取りには、数字の専門家であるCFO(最高財務責任者)の力が不可欠。彼に快く協力してもらい、会社の現状を包み隠さず情報提供してもらうために、まず自分を信頼してもらうことから始めました。相手がどんな課題を抱えているのか、どうすれば一緒に解決できるかを考える。その際、回答内容を理解できる程度に自らもしっかりと勉強する。
こうしたコミュニケーションを経営陣の一人ひとりと築くことを経てようやく、「平井はちゃんと話を聞いてくれるから、この話も持っていこう」と心を動かしてくれるようになるのです。
先ほど(前回)もお話ししましたが、この姿勢は、ソニーのCEOになったときも同じように心がけました。リーダーは「すべてを把握しているわけではない」という事実を謙虚に受け止め、自分の弱点を組織の力でどう補うかを真剣に考えることが大切です。絶対にやってはいけないのは、現場のことが分かっていないのに独断し、表面的な知識で戦略を語ること。これは、各分野のプロである社員たちから一番信頼を失う行為だと思います。
リーダーになった瞬間から、過去の実績や栄光は忘れること

── 未来を担う若手の皆さんは、まず現場のリーダーに任命されることが多いと思います。どんな点を意識して仕事するべきだと考えますか?
平井:係長や課長といった現場のリーダーも、企業のトップである社長も、管轄する規模が違うだけで本質はまったく同じです。規模に応じたEQ(心の知能指数)の高さを発揮し、メンバーに対してリーダーシップを発揮する。ここでいうEQとは、肩書きで人を動かそうとするのではなく、相手の感情を理解して一人の人間として向き合い、彼らが最大限の力を発揮できるよう導くということです。
若くして実績を上げてリーダーに抜擢される人もいるでしょう。ただ、実績だけで「リーダーにふさわしい」と勘違いし、間違った自信を持ってしまう人も少なくありません。人の上に立った瞬間に、過去の実績は忘れましょう。そこから考えるべきは自分ではなく、メンバーの活躍。マインドセットを根本から切り替えなければなりません。これは、野球の監督などとまったく同じで、現役時代のホームラン数がそのまま監督するチームの勝利につながるわけではありません。
── EQを高めるために、日頃からやっておいた方がよいことはありますか。
平井:私が若手の方にアドバイスしているのは、あえてアナログな手法を取ることです。仕事で話す必要があればチャットツールやメールだけで済ますのではなく、直接会いに行く。他愛もない世間話から人間関係は着実に発展していきます。
今の時代、これまでまったく接点のなかった部署との協働が求められることも珍しくありません。しかし、プロジェクトが決まってから初めて相手の部署と関わるのでは、相手からすれば「あなたは誰?」という状態から始まり、仕事をスムーズに進めにくいでしょう。将来を見据え、日頃から横の連携を意識し、しっかりとコミュニケーションをとっておくことが大事です。
そのように構築した人間関係は、リーダーとしてネガティブなことを伝える場面でも大きな意味を持ちます。普段の業務を通じてリレーションが構築され、信頼関係を育んでいるからこそ、厳しいフィードバックを伝えたときにも部下に受け止めてもらえる。上司と部下という関係以上に、人としてのリレーションを普段から築いておくことが重要です。
──次回は、キャリア形成に向けて若手時代に意識しておきたいポイントを具体的にうかがうとともに、平井さんが今挑戦していること、半導体業界に期待することをお話しいただきます。
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