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リングカメラを支えるセンシング技術。ユーザビリティを追求した試行錯誤の裏側
2026.08.17
- Text
- :野口理恵
- Photo
- :平郡政宏
指先に装着し、対象物を触りながら情報を得ることができる新しいアクセシビリティデバイス「リングカメラ」。この画期的なデバイスの開発を担うのは、イメージセンサーで世界シェアNo.1(※)を誇るソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社(以下、SSS)です。
第2回となる今回は、同社でプロジェクトを牽引する住岡徹次(すみおか・てつじ)さんと、開発に協力する日本科学未来館(以下、未来館)館長の浅川智恵子(あさかわ・ちえこ)さんに、リングカメラの具体的な仕組みやその中に詰め込まれた技術、開発の裏側を聞きました。
リングカメラを支えるセンシング技術と開発の裏側に迫ります。リングカメラは、取得した映像をスマートフォンやクラウドAIで解析し、音声や振動によって利用者へ情報を伝える仕組みです。内視鏡用イメージセンサーや微小レンズ技術を活用することで、自然に対象物へ触れながら使用できるサイズを実現しました。開発初期から視覚障がい当事者へのヒアリングを重ね、日常生活で感じる不便さを反映して開発してきたというリングカメラ。技術者の発想だけでなく、利用者の声を取り入れながら試作と改善を繰り返すことで、実用性の高いアクセシビリティデバイスへと進化してきた過程が描かれています。
センサー×AIで、「とらえる」「認識する」「伝える」をシームレスに

——リングカメラの具体的な仕組みについて教えてください。
住岡:リングカメラにはSSSで開発しているイメージセンサーが内蔵されています。イメージセンサーがとらえた画像は、腕に装着するデバイスを通じてスマートフォンにワイヤレスで転送されます。
転送されたデータは、スマートフォンのローカルアプリ、あるいはクラウド上のAIと連携して認識処理が行われ、最終的に音声としてユーザーにフィードバックされる、というのが基本的な仕組みです。「カメラでとらえ、認識し、伝える」という一連のプロセスが、シームレスに統合されています。
また、リング内には小さな振動デバイスも内蔵されています。カメラが何か対象物を見つけるとリングが振動し、それに応じてユーザーがリングのボタンを押すことで、対象物が何であるかを音声で詳しく読み上げるようなUXを実装しています。
——認識処理を行うAIは、どのようなものを採用しているのでしょうか。
住岡:リングカメラには最初に作ったVer.1と、現在のVer. 2があります。Ver.1では、イメージセンサーチップ自体にAI処理機能を組み込み、非常に小さなニューラルネットワークで動作させていました。ただ、その構成では扱える情報量に限界があったので、Ver.2ではスマートフォンとクラウド上の高度なAIを組み合わせたアーキテクチャへと進化させています。
たとえば、目の前にあるものを素早く認識したい場合はスマートフォン側で処理を行い、「これはペットボトルです」「これは机です」といった認識結果をすぐに返す。
一方、もう一歩踏み込んで周囲の状況を詳しく知りたい場合にはクラウド側のAIを利用します。物体検出モデル(YOLO)や大規模言語モデル(LLM)と連携することで、「何があるか」だけでなく、「机の上にペットボトルがあり、その右側にスマートフォンがあります」といった位置関係や状況まで説明できます。ユーザーは必要に応じてボタン操作でクラウド処理を呼び出すことができ、得られる情報量を自ら選択できる設計になっているんです。

多様なセンサーを開発するSSSだからこそ実現できた小型化
——Ver.1からVer.2への進化において、特に大きなブレイクスルーは何でしたか。
住岡:最大の壁は「小型化」でした。Ver.1は、AI処理も内蔵したイメージセンサーを使用していたため、消費電力は低かったものの、リング自体が大きくなってしまいました。実際に浅川さんや視覚障がい当事者の方々に試していただくと、指で触って探索する動作そのものの邪魔になってしまい、「自然に触りながら認識する」ことが達成できないと気づいたのです。
そこで、もっと小さなセンサーをつけてみようと、「内視鏡用イメージセンサー」に着目しました。医療用に開発された、体内を撮影するための超小型センサーです。さらに別部署が持つ微小レンズの技術を組み合わせることで、カメラ部分を劇的に小型化し、実用的なサイズのリングへと落とし込むことができました。
浅川:Ver.2はすばらしいですよね。使い勝手が格段に向上していて、一気に実社会での利用に近づいた感じがします。

——内視鏡用イメージセンサーを開発するチームが社内にいるのは、SSSならではですね。
住岡:そうですね。SSSの強みは多種多様なセンサー技術を持っていること、そしてそれをさまざまなアプリケーションへ展開していることです。
イメージセンサーは世界シェアNo.1(※)で、主にスマートフォン用が成長を牽引していますが、その技術は自動運転や工場での検査などにも活用されています。画像をきれいに写すだけでなく、距離を測る、動きを検知するといったセンシング技術まで自社で網羅している点が、開発力の源泉となっています。
浅川:視覚をテクノロジーで補うためには、どのような情報をどれだけ自然に取得できるかという点が非常に重要で、センシング技術はその根幹になると考えています。今伺っているだけでも、リングカメラ以外にも、さまざまな形で社会に実装されていく可能性を感じました。
※金額ベース。ソニー調べ
リングカメラの原点となった当事者の声

――「指を眼にする」という発想は、どのようにして生まれたのでしょうか。
住岡:開発初期に、多くの視覚障がい当事者の方々に日常生活で困っているシチュエーションをヒアリングしたんです。その中で印象に残ったのが、ある方のお弁当選びのエピソードでした。スーパーに並ぶお弁当は、手で触れただけでは中身がわからない。「仕方ないから、適当に一つ選んで買って帰る」と仰ったのです。
それを聞き、目の前にあるものを自分の手で確かめる延長で認識できるデバイスがあれば、こうした不便さを解決できるのではないかと考えました。それがリングカメラの原点です。
浅川:そのお話は私もたいへん共感しました。買い物の際、商品をいちいちスマホのカメラに映して確認するのは、周囲の目も気になるし時間もかかります。しかしリングカメラであれば、お弁当を手に取って、自然な動作で中身を確認できますね。
住岡:技術をどう社会に役立てるのかというのは、私たち技術者にとって常に重要なテーマです。リングカメラの開発にあたっても、実際に視覚障がい者の方と一緒に取り組むことは欠かせません。技術者だけでは得られない気づきや視点があるからです。
だからこそ、未来館の持つアクセシビリティの知見や当事者とのリサーチネットワークとつながることで、ニーズやペインポイントを正しく理解しながら技術開発を進めていきたいと考えています。
――次回はリングカメラの今後の展望や、さらにその先にお二人が思い描く未来像について伺います。













